無言の圧力


視線を感じる。痛くはないが、注視されているのがよくわかった。
気付いてしまうと無視するのも限度があり、窺うように顔を上げる。
座卓で向かい合う相手は肘を突いて気だるげにこちらを見ていた。
交わる視線、細まる瞳。

「すき」
「知ってます」
「俺も知ってた」

柔らかく落ちた言葉に被さるほど速く。身構えたぶんの即答は、これまた穏やかな微笑で受け止められてしまった。
一瞬止まる思考。

「いや自分のことですよね」

なんとか立て直して句点もなく返したところ、やはりまったりと紡がれる音。

「お前がそう返してくるのを」
「……なんですか遠回しな抗議ですか」

ああ言えば、こう言う。まさに体現。
お互い様だと分かってもいるがこの分かりきったような相手の態度が癇に障って仕方ない。
意識せず低くなる声に、は、と笑う息。

「ねだったら言ってくれるわけ」
「嫌ですけど」
「ほらみろ」

勝ち誇ったような表情がむかつくし何より、そういう理解を前提として受け入れて諦めている根底が腹立たしい。
もはやどこに怒りを覚えたものか複雑怪奇な現状と己の気性は棚に上げ、気持ちのままに行動した。
天板に掌を叩きつけて、乗り出した勢いで頭突き。僅か仰け反った顔へ唇を押し付ける。
鈍い痛みと共にすぐ離す。表情の固まった相手がぎこちなく言葉を発する。

「…いや、行動は嬉しいけど」

言い終わる前に再度触れた。ちゅ、と響く間に焦った声。

「おま、この、」

大きく口を開けて噛み付くように食んで、舌をねじ込み肩を押さえた。


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