割れ鍋


「あんたもうちょっと雰囲気とかないんすか」
「お前がそれ言う?」

やることやって落ち着いて、適当な会話に対する倉間の文句。
何を今更、本気で今更。
しかし、何のことだというその態度も少し面白かったので、思わせぶりに指を伸ばして髪を梳いた。
笑みを浮かべながら顔を寄せ、囁くように、一言。

「平気?」
「ぶふっ、」
「ほらみろ」

期待を裏切らず吹き出した倉間の額を弾く。
ウケるのが止まらない様子で「いま、さら、」だの笑っているこいつをどうにかしたところで俺に罪はない。
近寄ったまま肩を押さえ、圧し掛かるように身体を起こした。

「え」

止まる表情にわざとらしく笑いかける。
少し乱れた布団を跳ね除け、改めて見下ろす形を取る。

「いやいやいやおかしいですよね、そんなアレじゃなかった絶対違った」
「誰かさんのせいでな」
「どっちの意味で?!」

混乱する倉間が目に見えて焦り始めるが、もう止まらない。むしろ止めない。
掌を滑らせて皮膚を辿り、臍を人差し指で擽ってから腰を撫でる。震える身体が、そそる。

「足りないよな、うんわかるわかる」
「まじしねまじしねマジしね!」
「いやー、お前のこと愛してるから死なないわー」
「うぜー!!普通に言われんのもお断りだけどこの流れは究極にうぜえ!」

太ももを掴んだあたりで本気のテンパりが暴言を生む。
そんなもので萎えるくらいなら欲情なんてしていない。
しれっと流して膝裏を持ち上げたようとしたところ、片足が蹴るような動きを見せる。

「あんま暴れると零れるぞ、さっきの」
「っ…――!!」

騒ぎ立てる態度から一変、剣の切っ先の如く鋭い眼差しがこちらを睨む。
殺気さえ篭もったその視線、朱に染まった頬は羞恥だけではないのだと主張する。
背筋を駆け上がる痺れに似た欲。興奮と期待から喉を鳴らす。

「ほんっと、可愛い」


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