メガネロック


事も無げにケースから取り出されたものを見て、倉間が瞬いた。

「目、悪くないですよね」
「ああ、パソコン用」

短く答え、かける動きにさえ卒がない。何をしても絵になるような相手はたびたび癪に障る。
無遠慮な視線を向けていると一度画面へ移った相手の意識が倉間に戻り、中指でブリッジを押し上げて厳かに言う。

「言いたいことは色々あるが、割るなよ」
「割りませんよ」
「じゃあなんで握ってんだ拳を」
「割りませんよ」
「なんで二回言う」
「天丼って知ってますか」

口火を切った瞬間から南沢がじりじりと距離を取る。もちろん、そのぶん倉間は詰め寄った。
若干忘れられかけたノートパソコンが机の上でスクリーンセーバーを表示している。

「繰り返すなら最終的には割らないんだな?」

言葉遊びの延長を断ち切るよう、ネタの弱点を突いてくるあたり割と必死だ。
なんだかよく分からない追い詰めを感じたので正直に告げる。

「力ってのは溜めておけないんですよ」
「おい何の話だ」

そもそもが勢いのノリでここまでくるといっそ楽しい。
別に本当に割るだの互いに思ってはいないはずだが緊張を生んだ空間が後には引けなくさせてくれた。
いよいよ肩を掴もうかというあたりで聞こえてきたのは戯言ひとつ。

「割ったらお前の好きなこの顔が傷つくぞ」
「自分で言った……」
「おいひくなコラ」

思わず詰め寄った距離を空ける。すぐさま、不機嫌な声が引き止める掌と共に。
手首を取られて仕方なく寄り添うと、復活するむかつく微笑。

「で。邪魔してまで構って欲しいほど見惚れた?」
「本気で割りますよ」

自由な片手で眼鏡を取り上げ、唇を押し当てた。

「まあ傷があろうが好きですけど」

見開く瞳、続く本音。

「なんなら責任も取りますけど」
「…ばーか」

微かに目元を染めた相手が度の入ってないそれを奪い返す。


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