負けず嫌い


「お前は俺にもっと優しくすべきだと思う」
「え?」

何を言われているのか理解できないといったていで短く一文字。
噛み締めるようにゆっくりと繰り返した。

「優しくすべきだと思う」
「人様に喧嘩売って生きてませんよ」

主語を抜いたら別方向で返ってきた。もちろんそんな答えは望んでいない。

「俺に」
「はい?」

聞こえません的なジェスチャーを交えてリピート。首を動かして耳を向けてくる細かさが腹立たしい。

「てめ、あからさますぎんだよ、なんだ耳の調子でも悪いってか」
「そーですね、南沢さん限定で」
「ああそう」

思わず言葉も乱暴に詰め寄ると、悪びれもなくしれっと対応。
いい度胸だいい根性だ、自然に笑みが浮かんで肩を掴む。引き寄せて囁くのは早口で低音。

「あいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてる」
「うわああああああああああああああ!!」

近距離で叫ばれてキーンとする。同時に突き飛ばされて少したたらを踏み、笑ったまま、一言。

「機能してて何よりだな」

赤くなった状態で睨みつけられても可愛いもので、いまさっきの不機嫌がどうでもよくなった。
安いもんだなと心中で自嘲しつつ、満足したぶんややこしくなった収集をどうつけるか僅かな思案。
掴み返された肩に頭突きでもくるかと思いきや、耳元へ寄る唇。途端、耳朶を滑る温かい感触。

「っ!」

認識が追いつくより早く湿った音が窪みをなぞるに合わせてぴちゃりと鳴った。
ぞくりと震える背中へ腕が回る。

「ざまあ」

息を零しながら、熱くなった頬を倉間が撫でる。


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