要望


本棚から一冊取り出す。勝手に物色しているがここは先輩の部屋だったりする。
とうに遠慮のない関係は今更なので、咎められたりもしない。
ページを開きかけ、寄ってきた相手の気配に視線を上げた。

「倉間」
「駄目です」

呼びかけへぴしゃりと言い放つ。
む、と少し機嫌を損ねた南沢さんが身体を寄せる。

「まだ何も言ってない」
「言わせないという拒否」
「発言さえも」

適当に答えながら本に視線を戻そうとすると顎が捕まった。
涼しげな顔でなおも一言。

「キスしたい」
「回し蹴りすんぞこら」
「喋ったからですか」
「そうですね」

本で指を押し退ける。実に微妙な攻防戦。

「でもキスしたい」

左手が本を取り上げて、有無を言わさず噛み付かれた。


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