習慣への


何ということはないけれど、そんな気分だった、それだけだ。
あえて言えば毎度毎度される側なのも癪である、事実。
隙だらけの――家の中で身構えられても困るだとかはこの際置いて――背中へ寄り添うように凭れるくらい、大したことじゃない。

「かわいいかわいくて嬉しいけど前からがいい葛藤」
「馬鹿ですか」

心の本音だだ漏れにしてくる相手は限りなく真顔なので本当に美形の無駄遣いだと思う。
想定より冷めた声が出てしまい、つられて落ちる向こうのテンション。つまりは拗ねた。

「だってお前甘えてこないし」
「それは、」

――アンタが数限りなくべたべたしてくるからだよ…!

言いたい気持ちを抑えたのは「じゃあ嫌なのか」等の反応に流れるのが凄まじく面倒だからだ。
拗ねモードに入った相手の愚痴はさらに続く。

「俺が甘えてもつれないし」
「う」
「さみしい」

畳み掛ける最後の台詞に割と感情が乗っていた。
胸を掴まれるものの、勢いをどう処理していいかわからない苦悩の行き着く場所は行動しかない。
気の利いたことも言えず、ただただ伸ばした腕で抱きついて擦り寄って力を込めた。
ほとんどタイムラグなく零れる笑い。

「ふ、冗談」
「え」
「出来ないのがお前の甘えって知ってる」

優しい声は揶揄ではなかった。
一気に高まる鼓動、渦巻く羞恥、そして何よりも、何よりも。
そろそろと腕を離し、横から覗き込みにいく。
不思議そうな相手を見上げる顔はひどく熱いが、言うべきことがある。

「あの、甘えて、ください」


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