甘えさせろ


気配を感じたので抱きつかれるのかと思ったら、凭れかかるに留まった。
背中に当たる体温がじわじわと伝わってくる。
首だけ動かして視線をやってみたタイミングで言葉がぽつり。

「……疲れた」

覇気の欠片もなく、心底消耗した様子の声音。
一度だけ瞬いて、そこそこの間をもって口を開いた。

「それは大変ですね」
「労いが感じられない…」
「感想なんで」
「愛が足りない……」
「今更かと」

発声と語尾が怪しい割に即答で被せてくるあたり元気じゃないのかと勝手に思う。
中途半端な角度であまり顔も見えず、とりあえず斬り捨てるような流れになったところ恨めしげに視線が上がった。

「その開き直りはひどい」
「いきなり言葉が明瞭に」

うだうだくだを巻いていた情けなさから不満を訴えるモードへ移行。
そろそろ首がだるい感じがするので向き直りたいのだが申告すると火に油を注ぎそうだ。
心中を知ってか知らずかますます不機嫌に表情を塗り替え、今更ながら肩を掴んでくる。

「足りないってわかってんなら、お前さーおまえさー、」
「はいはい、よしよし」

伸び上がりそうな頭をぽんぽんと撫でて、よしよしと手のひらを動かす。
む、と睨みつけ、肩甲骨あたりへぐりぐりと押し付けられる、額。
これはまた重症だ。後頭部に移した手で髪を梳きながら、言い聞かせるように。

「別にどんだけそうやっててもいいですけど、ちゃんと前から来たらそれなりにあげますよ」

提案を一つ。ぴたり、止まった頭。押し付けられたまま声が篭もって届く。

「どの基準の」
「いつもどおりの」

いよいよ首の負担を考えて前を向いたら、後ろへ引きずり倒された。


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