そうは問屋が卸さない


「やだ、俺の」
「えー、と、俺、好きとかそういうの言われてないですよね?」
「でも俺の」

何に対する「やだ」なのか、どこにかかってその発言になったのか。
三十分ほど前から俺を抱え込んで離さない南沢さんはようやく喋ったと思えば駄々っ子だった。

「一番確認すべきとこですよね?」
「俺の」
「会話しろよ」
「……俺の」

ダメだこの人。短い沈黙に、お、と思えば結局リピート。
後ろから抱き込まれているから顔も見えない。いや、見える時は見えるだろうが伏せてやがるので確認できない。

「俺、南沢さんに甘い自覚はありますし尊敬もしてますし、そりゃあ贔屓だってしますけどね」
「うん」
「うん、じゃねーよ。流されるって相当の妥協だってわかってんですか」

密着した体温、押し付けられた箇所から聞こえてくるのは短い肯定。
何やってんだ、この流れでなし崩しになるとでも思ってんのか、そんなぐだぐだで通るか馬鹿野郎。
少しばかり問いかけを強くしてみれば、妥協に対しての返事がきた。

「俺だからするんだろ、つーかしろ」
「ついに命令形で」

開き直りもここまで来るといっそ清々しい。
斜めに振り返る首がそこそこ痛いようなだるいような感じになってきたので話を終わらせたい。
鬱陶しげな気持ちが伝わったか、やっと見えた近い距離の瞳はなんだか恨めしく視線を注ぐ。

「お前、こっちが必死になってんだからさっさと、」
「さっさと告白したらいいんじゃないですかね、アンタが」

きっぱりすっぱり遮った。ここで俺に向けようとはいい度胸だ。
見据えて嗜めるように言い終えると、もう一度肩に額を当てて、強く強く抱き締める。

「はい保留ー、ざんねーん」

景品が参加賞のティッシュだったくじ引きの結果のような声を上げて、子供みたいな相手の頭を撫でた。


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