百発百中


昼間の快晴が嘘のように土砂降りの雨。
下校する生徒で溢れる玄関で、立ち止まっている後姿は見覚えがある。
すっと横に並ぶと、おお、と気付いたように自分を見た。

「傘ないんですか」
「まあな」
「今日、午後90%でしたよ?」
「まじか。どーりで傘率高いと思った」
「天気予報くらい見ましょーよ…」

困った様子もなく淡々と答えるのに頭が痛い。
放って帰るのも簡単だが、見つけてしまったからにはそうもいかないし分かってて声を掛けている。
自分の手元を見た。

「あーもー仕方ねーな」

ぱん、と軽い音で傘を開き、数歩進んで向き直る。

「入れてあげますから、帰りましょう」
「なるほど、相合傘」
「やめてください」

手を打つジェスチャーまで加えた反応を即座に切り捨てた。

大人しく並んで雨の中を歩く。背の関係で相手が持つことになるのは正直物凄く腹が立つ。
先程の発言がしっかりと尾を引いて、げんなり呟いた。

「女子とやったこともねーのに、男とか…引くわ」
「メリットもあんだろ」

大きな独り言をさらっと拾った南沢が近い距離をいいことに囁いた。

「隠れてキスできんぞ」
「そんなの家でいくらでもできるっつの。相合い傘とか…ねーよ…」

即答したタイミングで信号は赤。足を止め、待つこと数十秒。
静かだと思って傍らを見る。何故か片手で顔を覆っている。
傘が少し傾いて、バランスがおかしい。

「南沢さん?濡れますよ?」
「いや、おまえ…」
「?」

金属の部分を握って傘をまっすぐ固定する。
見上げた視線に、ゆっくりと相手が顔を見せた。

「家ならいくらでも、する?」
「!!」

寄せられた眉、困った表情。見せたくはなかっただろうその顔は何よりも何よりも。

「顔、赤いですよ」
「お前こそ」

信号が青に変わった。

「しませんから!」
「いまは?」
「…………いまは」

足早に歩き出す、言い切る台詞に続くのは確認。疑問ではない。
冷たい金属から手を滑らせ、持ち手を握る指を柔らかく握る。 すぐに離して、肯定した。
帰り道は、あと少し。


戻る