抱きついてみた


本に集中してしばらくのこと。突然、それなりの勢いで背中にぶつかってくる衝撃、そして体温。
腹に回される腕へ視線を落とし、もう一度前を向く。

「襲撃か」
「それなら首を狙いますね」
「ガチすぎるやめろ」

適当なネタにすぐさま返せる才能は他で発揮して欲しい。
腕が絡んだのが首だったら危機感を覚えるところだ。締めるくらいはやる、こいつはやる。
物騒な答えを真剣に却下する間、すりついてくる動きが可愛いとかそれは別の話だ。
しかし、無言で背中にぐりぐりするばかりの行動をたっぷり十秒ほど。
耐えられない気分になる俺は悪くない、絶対に。

「甘えてくれるなら前からがいいんですが」
「調子に乗られるとうざいんでこのくらいがいいです」
「今まさにテンションが上がってきたんで抱き締めさせてください」
「お断りします」

淡々とした要望は同じく平坦に突っ返される。言動を連携させることを考えてくれと主張したい。
負けた気分で肩越しに振り返る。

「……キスできないから嫌だ」
「わがまま」

ちゅ。思ったより近かった顔が待っていたようにすぐ寄せられた。
軽い感触、温かさ。

「できるじゃないですか」

不機嫌そうに照れる相手の目元が赤い。

「衝動で押し倒せない」
「よし黙れ」

笑顔と共に頭突きを食らった。


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