言い分


無意識に寝返りを打った倉間が、眉を寄せて吐息を零す。
手元の携帯を弄る指を止め、視線を向けた。
やがてゆっくりと瞼を開ける相手が自分を捉え、掠れた声で何事か呟いた。
たぶん名前じゃないかと思う。

「起きたか。気分は?」
「痛いっす。どこもかしこも。最悪」
「ははっ」

問いかけを聞いて露骨に顔を顰める。
ついつい笑いが落ちたのは、決して馬鹿にしたのではない。
剣呑な光を帯びた視線を受け流し、口の端を上げた。

「睨むなよ。お前が粘ったくせに」

およそ順調とはいかない初体験だった。
そもそも手段を調べたところで実際やってみなきゃわからないことなんてザラにあるわけで、 受け入れる側の負担を考えるとある程度の抑えは効いてくる。 それをこの後輩は、大丈夫の一点張りで最後まで譲らなかったのだ。
睨んだままの倉間が片手で髪を掻き回して息を吐き、低く言いつのる。

「……だってアンタ、」
「ん?」
「アンタ、痛くて止めたら触ってこないだろ」

息が止まる。
視線が逃げさせてくれないのを分かっていて片手で顔を覆った。

「あー……」

利き手越しに感じる強い意識。いたい、これはいたい。
指の隙間を空けて相手を見る、ぎこちなく口を動かす。

「俺だって、お前が大事なんだよ」
「知ってます」

即答されて押し黙るしかない。
なんだその自信、とか普段なら揶揄できるものの、この雰囲気が許すはずもなかった。

「でもそれでやめんのも、ムカつく」

追い討ちをかけてくる声が本当に不機嫌だったので、観念して白旗を揚げる。

「…次は頑張ります」
「よろしくお願いします」


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