エンドマーク


カーペットの上、与えられたクッション、程よく効いた暖房。
完全に寛ぐ雰囲気だったはずの部屋の中、セルフで正座しての気まずい沈黙。

「お前な」
「はい、すいません」
「繰り返さない為に謝罪や反省はあるんだよ」

座椅子側へ凭れた南沢の体勢はえらぶった態度のたまものではなく、先ほどのダメージが地味に響いたゆえ自然回復を待つ生物としての本能である。そこまで大袈裟な、と思っておいて倉間は脳内で突っ込むがそもそも手を出したのが自分だからボケも出来ない。もはやじっとり睨んでくる感じの先輩へ、何度目か数えるのも微妙な言い訳を口にする。

「なんかもう、条件反射で…」
「反射で鳩尾を的確に狙うか」
「え、顔が良かったんですか?」
「なんでだよ」

告解のつもりがうっかりするっと懲りないノリを示した為、一段階声が低くなった。さすがに視線をそらす。
悪いとは思っている、悪いとは思っているのだが――――数秒だけ逃げた顔を相手へ戻して、事の次第を確認。

「そもそも南沢さんが」
「俺が?」

続きが言えない。
言ってしまえば繰り返しになるし、そこを避けたいからこそコントのような状況になっていたのが真相でもある。相手が拗ねてうやむやになったり、無理矢理ねじ伏せてきた一連のツケが見事回った。口を噤んだ倉間に対し、座椅子から身を起こして距離を詰めてくる。這い寄られるというのはどうしてこうも恐ろしいのか。正座だったせいでろくに身も引けやしない。触れるようでギリギリのところ、伸び上がった南沢が目を細める。

「なに、お前触られたくない?」

ごくん、と喉を鳴らす。カーペットへ突いた手へ力が篭もった。

「いや?」

問う声は短く、鋭くなる。
知らず腕が震えて、唇が乾いた。

「お、こって…ます?」
「わかるだろ」

響きの違う低音が届いて、囲うように圧し掛かられる。

「焦れてんだよ」

肘から床へと崩れ落ちた。


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