認識済み 「南沢さん、なんでしたっけ」 「ツナサラダ」 自分のクレープを咀嚼しながら倉間が言葉にならない声で、んー、と言った。 多分、あー、とか言いたかったんじゃないかと思う。 男が買い食いするにはハードルの高いランキングに入りそうなものの気がするが、 普通にアイスをダブルやらトリプルで買って食べ歩いているらしい後輩には関係のない話だ。 女子か、とツッコミたいが一年生もやっていると聞いた。違う、子供だ。 「ひと口ください」 「あ?」 「ひとくち」 お前の食べてたそれと味の共存は可能なのか、 そう思いつつあまりにも自然に言ってのけるので悩むうち、了解も得ずに相手の顔が寄る。 ぱくん。やけに軽快な効果音でもしそうな動きで大きくひと口。クレープが齧られた。 「こういうのは、照れないのな」 「照れるとこありましたか」 もぐもぐ、口に入れながら器用に喋る。とりあえず飲み込んでから話せ。 本当に噛んだかと聞きたい速さでごくんと飲み、一言。 「あ、これうまい」 「そうか、よかったな」 他にコメントのしようがない。 ちら、と視線を寄越した倉間は更にねだった。 「もうひとくち」 「お前の一口でかくね?」 「俺のもあげますよ」 差し出されたのはカスタードチョコバナナ生クリーム。これでもトッピングを並べた値段の張るやつだ。 奢るから選んだんじゃなく、自分で買う時も割とこんな感じなのは祭りの屋台の時に納得した。 マヨネーズと生クリームの夢の競演を口内で実現させたくはなかったので気持ちだけもらっておく。 飲み込めば次に食うものは関係ないとかいう倉間の主張を俺は認めない。 もう好きにすればいいと思い、包み紙を少しめくって相手へと。 嬉しそうな顔でぱくついた途端、マヨネーズが指へ伝った。 「あ」 鞄にティッシュがあったはず、脳裏をよぎった考えと同時、謎の感触。 生温かい、それが舐め取る舌だと気付いたのは倉間が再度飲み下してからだった。 「お、まえさあ……」 手が動かせず、先程の感触に困惑していると、涼しい顔をしていた相手が口角を上げる。 「南沢さん、やーらし」 その顔を見て、確信する。 こいつ、最初から分かってて。 「このやろ」 「食いたいのは本当ですー。意識する南沢さんがおかしいんですー」 愉快そうにけらけら笑う倉間。頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。 うわ、と言いながらもまだ笑いの抜けない相手の前髪を持ち上げ額にキス。 「っ」 目を見開き立ち止まったのに溜飲を下げ、もう一度優しく頭を撫でた。 |