墓穴


「あ」

それしか言えない、マジで、あ、としかいいようのない、あ。べちん、じゃなかった。音で表現して見せるなら、ずびし、とかそんな感じの。振り払う勢いでおもっくそ入ったのは相手の顔。手刀の形で斜めに殴りつけたことに、なる。
衝撃もなかなかあったのでたぶん痛い、これは結構痛い。
すぐさま浮かせた手、あまりの不可抗力に口も上手く回らない。

「だい、じょぶですか…?」

聞くが早いか取られる手首。何か思う前に手のひらを舌が舐め上げた。

「っ!?」

あつい、いや舌自体はむしろ生ぬるい、それでも手がものすごく熱い。こういうのを避けるために起こした行動が結局招いている事実に消え去りたい。引きつった俺に上機嫌な南沢さんは指の間をわざとゆっくり舐め上げ、間接から吸い付くよう何度も何度もキスを這わす。ちゅ、ちゅ、ちゅ、と軽く聞こえる音も感触も拷問だ。親指の付け根から下がると手首の尖った骨をれろー、となぞる。

「あ、ぁ」

湿った温かさにぞくぞくと震えが走っていく。きもちわるい、気持ち悪い、はずだ。上ずった声が落ちたのをとろけるような笑みで受け取り、にこーっと手の甲へ頬を寄せる。

「かわいい」

細まった瞳に息を飲む。


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