負けず嫌い



「やだ」

口が出たのが先か動いたのが先か。
壁へ押し付ける腕は勝手に、囲うように追い詰め覗き込む。

「いやだ、絶対に許さない」

何か言いかける前に顔を寄せ、鼻先掠める位置で音を重ねていく。

「好き以外の感情は認めない、嫌いも無関心も全部却下。俺を見て俺のこと考えて生きろ」

内容よりも出来事自体に驚いていた様子の倉間が一拍ののち、大した動揺もなく淡白に言い放った。

「うっわ、重苦しい」
「ああ重いよ。その重い奴に好かれたんだから諦めろよ」

あからさまな他人事批評も興味はない。届けたいのはあくまで己の言葉だけで、ようはそれさえ伝わればいいのだ。

「ずっと惚れてろ」

表情も視線も逸らされぬまま、告げた想いは空間に溶けた。
ややあって、薄く唇が開く。

「随分と臆病な脅迫ですね」

鼻で笑うような顔。嘲ける文字列は平坦であって且つ主張の意味合いが濃い。
それまでだらりと下ろされていた腕がいきなり跳ね上がる。

「あと、すっげー不愉快」

胸倉を掴まれて後方へ押された。少しバランスが崩れ、壁を背にした相手が再度引き寄せる。
倒れこむにちかいその体勢で、凄まじい殺気が迸った。

「なに俺がやめんの前提なんだよ、はったおすぞ」


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