体温


目が覚めると、隣の布団が空だった。
正確には、その中身が自分にくっついて寝息を立てている。
働かない頭で状況を確認し、時計も確認して肩を揺らす。

「くらま、朝」
「しってます、さむい」

予想より早い返答は眠気が濃く、起床を嫌がってすりついてきた。
この分だと潜り込んできたのはついさっきに近いのかもしれない。
おさまりのいい位置を見つけると、静かに聞こえてくる、寝息。

「こらこらこら」

寝入るのを見守るわけにもいかなかった。今日は一限のはずだ、そして自分も教授に用がある。
引き剥がそうとしたタイミングで、ふにゃりと緩む表情。

「南沢さん、あったけぇ」
「っ、」

――かわっ…

心中で叫びかけ、口元を抑える。

「…いいのもいい加減にしろよ」

ごく小さく手の中へぼやき、尚も気持ちよさげに擦り寄るのを拷問のような気分で見やった。
その間も進んでいく秒針、悩んだ時間はそう長くなく、背中へと腕を回す。

「ん…、」

とろんと眠りに落ちそうな声を聞きながら、寝巻きの裾に手を入れた。するり、手のひらで皮膚をひと撫で。
瞬間、目を見開いた倉間はハテナとビックリマークを同時に浮かべて腕を叩き落とす荒業を見せた。

「…何すんですか」
「起きただろ」

一気に覚醒したらしい凄まじい剣呑さで睨まれる。
心外だとまっすぐ見つめ返す。

「感謝しろよ」
「は」
「耐えた俺に」

違う気を起こしていたら触り方ももっと変わった。あくまで起こすからこその行動である。
どこまで詳しく受け取ったかは分からないが、僅か引きつった倉間が力一杯手のひらを叩きつけてきた。

「いたいいたいいたい」

べしべしべしべし、八つ当たりでしかない攻撃はなかなか止まず、しばらく好きにさせるとやがてゆっくり手が落ちる。
視線が時計へ移り、もう一度こちらへ。
完全に拗ねた感じで唇をむー、と尖らせたかと思うと、そのまま顔を近づける。
柔らかい、体温。離してすぐさま、ぶっきらぼうな声。

「おはよう、ございます」


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