我侭


耳を塞ぎたくなるような鈍い金属音。反射的に目を瞑り、おそるおそる開けてみると、
南沢さんが傍らのロッカーを殴りつけていた。

「…んで、」

俯いたままで呟くように落ちた声は聞き取りづらい。
え、とつい零れた疑問の音。途端、鋭い視線で睨み付け、責める口調で言い放った。

「なんでお前の一番が俺じゃないんだよ…!」

何言ってんだマジで。
しかも怖い、顔が怖い。ガチギレ、マジギレより上のレベルで怒ってるぞこれ。
キレられる理由が本気で思い当たらない。
一番?一番ってなんだ、どういうカテゴリーなんだ。何を答えたら満足するんだ。

「ていうかそもそも一番とか、なんの」

なんとか口にした心からの問いに、目の前の顔が歪む。
あ。この人泣きそうだ。
いよいよ分からない、つーか泣くな、泣かれてもすーげー困る。
別に捕まえられてるわけでもないのに動けないのはこの眼力と必死さのせい。
そしてこれだけ怖いのに泣く手前みたいに思える理由は雰囲気っていうか、直感。
えーと、一番だよな、一番。
南沢さんが何言ってるかさっぱりわかんねーけど、言えることがあるのは確かだ。

「南沢さんは、俺の中である意味一番ですよ」
「ある意味は抜け」
「無茶言う」

レスポンスの早さがなんともいえない。
何でそんな必死なんだよ、落ち着けよ。
埒が明かないのを確信して、ひとつ溜息。深く深く。
すいっと一歩近付くとあれだけ威嚇しておきながら怯えるみたいに肩が揺れた。
ロッカーを殴った手はいつのまにか下ろされて、かたく握り拳。
目を逸らさずに近くで見上げ、両手を頬へと伸ばす。

「南沢さんが一番です」

我ながら甘い、と思いはするが自棄になられても寝覚めが悪い。
手のひらへ体温を感じながら、ゆっくり唇を動かした。
瞠目し、息を呑む気配。背伸びすんのは癪なので、顔をいくらか引き寄せる。

「駄々こねんな」


戻る