譲らない


何気なく部屋で視線を上げると、壁のカレンダーに目がいった。
傍らの倉間もそうだったようで、しばらくの沈黙のちおもむろに切り出してくる。

「南沢さんって時事ネタとか乗るほうですか」
「程度による」
「今日、4月1日ですね」
「そうだな」
「わか、」
「れない」

予想できるに程がある流れを断ち切った。
思ったより早口でそして強く出た声はどうかしているかもしれないが、気持ち的にはそうでもない。

「こんだけネタ振ってまさかの」
「むしろこの流れで言おうとするのが驚く」

あからさまに驚いた顔で首を動かす相手に少しの苛立ち。
なるべく感情を出さずに答えるよう努めた結果、探るような視線と沈黙。
一度視線を外し考え込んだ倉間が、まさかとは思うけれど、といった雰囲気で問いかけてくる。

「…………もしかして怒ってます?」
「その単語は聞きたくない」
「や、冗談、」
「嘘でも」

また遮る音がきつくなった。倉間の肩が震えた気がする、でも口から出る言葉は止められない。

「言葉遊びだろうと、言わせてたまるか」

苦々しく零れたのは紛れもなく本心。
余裕がない、大人気ない、そんなことは百も承知。
それでもそれが紡がれるなんて耐えられる訳がないのだ。

「、すいません」

息を飲む気配に慌てて意識を戻すと俯く相手。
元々見えづらい表情は長い前髪と角度で隠れて全く見えなくなる。
胸の奥がざわめいた。

「倉間?」
「いや、あの違うんで、泣いてるとかじゃないんで」

呼ぶ声が渇く。すぐさま返る答えに信憑性などありはしない。
必死に腕を振るのを詰め寄る。

「顔見せろ」
「なんでもないですって」
「じゃあ見せろ」

両腕を押さえつけ、自ら上げるのを待つ。
指で向かせた先で泣かれていたら抑えが効かなくなりそうだ。
ややあって、観念した様子でゆっくりと首を動かすのを覚悟しながら見つめる。

「…………なんで赤いんだよ」

ようやく視界におさめた倉間の表情は居た堪れないという言葉を具現化したような感じだった。
あちこち目線を泳がせて、やっと口にした内容は切れ切れ。

「だって、アンタ、はずかし…」
「はあ?」

本気で意味が分からず間の抜けた声。少しむっとした相手がそのまま身を乗り出してきて。
ちゅ。軽く触れる柔らかい感触。

「すきです」

離れてすぐに伝わるもの。一気に熱くなったのはどうしようもない。
してやったりと笑う倉間。

「なんで赤くなるんですか」
「わかるだろ」


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