どうしようもない


「お前デコピンな」
「えー」

軽口のやり取りが些細なミス(重ねて運んだ本をうっかり落として足の甲に直撃させた。多分かなり痛い)によって実行される流れになったのはある意味仕方ない。
親指と人差し指で輪を作り、ひょいと近づいてくる手に思わず目を閉じる。反射的というやつだ。
しかし予想した衝撃も痛みもなかなかこない――やったところで力など大して加えてこない相手ではあるがそれにしてもあまりに遅い。
目を開けようか、しかし開けた途端に食らってもそれはそれで嫌だ。悩んだ矢先に触れてきたのは温かな、感触。

「!?」

驚いて見開く。覗き込む距離の相手は罰の悪そうな表情を浮かべていて。

「目ぇ瞑って待ってるとか、キスしたくなる」
「バカか!」

力の限り突っ込んだ。

「口にはしなかっただろ」
「そこじゃねーし!」

論点のズレまくる答えに頭痛の気配。
すると開き直った感想が炸裂した。

「お前可愛いんだよ!」
「知るかよ!!」

馬鹿にも程があった。壁やら机やらが近くにあれば叩き付けたのだが生憎微妙な距離だったので床を踏むしかない。
互いにやけくそめいた叫びで数秒の間、伸ばされた両手から逃げる気にならず放っておくと頬を掌で包まれる。

「かわいい…、」

蕩けた視線へ変化するのを見ていられずに再度強く目を閉じる。
今度こそ柔らかく唇が触れた。


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