臆病者


「そんなに俺が好き?なにされても?」

両腕を掴んで壁に押し付けて、状況だけ見れば完全に加害者。
防いだ逃げ場も意に介さず、落ち着いた声で倉間が言う。

「抵抗くらいしますけど」
「させなかったら?」

言い終わらないうちに苛立ちを被せる。ただ見上げていた瞳がわずか細まった。
小さく吐き出される、溜息。

「アンタ、それで俺に軽蔑とかしてほしいわけ?」

心底鬱陶しげな様子で呆れた声音。

「ばっかじゃねーの」

叫んだわけでもないのに、やけにはっきりと罵倒が響いた。

「したらしたでどうせ、ほらやっぱりなとか自己完結してくんだろ、超めんどくせー」

もはや半目になって投げやり感さえ滲ませて吐き捨ててくる。
未だ腕を振り払う仕草もない。壁に追い込まれたまま、それなのに、窮地に立っているのは自分という錯覚。

「悪いけど、俺は南沢さんを嫌いになる予定はないんで。諦めて愛されといてください」

言い切る答えに眩暈がした。


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