イコールイコール


自主練習の延長で雑談となり、床に座り込んだままだらだらと喋る。
向かい合う相手の反応を楽しみながら話してしばらく、何とはなしに思ったことを口にした。

「俺のダンス好き?」
「そりゃあ」
「即答」

くっ、と笑う南沢が堪えた表情でなおも続ける。

「演技は?」
「すきです、つーか尊敬、いや、んー……やっぱ好き」
「尊敬よりすきかよ」

真面目な顔でやはり即答、からの思案かと思えば結論は同じ。
ツッコミのようで語尾は笑い声になってしまった。

「そー、かも、」
「ははっ」

顎に指を当て首を傾げてみせる倉間にいよいよ可笑しさが止まらない。
ひとしきりウケたのち、怒るでもなく自分を見ている相手へ視線を向けた。

「じゃあ俺は?」
「え」
「おれ、は?」

固まる表情。文節を区切っての再度の質問に倉間の態度が目に見えて変化する。

「や、その、」
「なに」

逸らそうと泳ぐ視線を追いかけていく、慌てる声が動揺に侵食され音が跳ねた。

「わかって、るじゃないですか」

合わない目線に潜むのは怯えのような何か。床へ手を突いて顔を寄せる。
息がかかって倉間がびくりと震えた。

「聞きたい」
「むりです」
「即答かよ」
「え、あ、ちがくて、」
「なにが」

テンパりの拒否を責めれば途端に瓦解する。うろたえる様子を見逃してやるはずもなく、今度こそ瞳を捕らえて覗きこむ。息の飲む音が聞こえた。

「すげぇ、あの、勘弁してください……」

言うと同時、朱に彩られる顔。耐えかねた声は掠れ、恥じらいと泣きの中間で歪む表情。
口元を緩ませながら額へ宛てる。きゅっと目を閉じる倉間へ囁く。

「すきだよ」
「……、はい」
「くらま」

噛み締める間と、返答。しかし望むのはそれではない。
甘く名を呼べば、こくん、唾を飲んで唇が動いた。

「すき、です」
「よくできました」

労いを込めて鼻先へキスを。軽い触れ方にもまた目を瞑って、そのあとおずおずと肩を掴んでくる。
窺う視線が何かを訴えた。

「くちじゃ、ないんですか」

赤らめて潤んだ瞳で言う破壊力について問いたい。

「おまえもう、ほんと、」

音を立てて口付け、吸う力を少しだけ。縋る指に煽られつつも、唇を離す。
物足りなさげな、その視線。

「かわいい」

思わず強く、掻き抱いた。


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