過ちを認めることは自分にはとても難しい


喧嘩をした。とはいってもぶっちゃけもう原因を覚えていない。
きっとくだらないことだろう、それが悪化して罵り合いになって意地を張って冷戦になるのも 初めてじゃなかった。
繰り返しているからこそ、毎度長引くきっかけのような気もする。
早々に寝つく習慣は身体にはいいかもしれないが精神衛生上は非常によろしくない。 間が持たないし会話もできないから寝るか他の事をするかとなるわけだ。 時間の合わない日はまだいい、しかし普段なら喜ぶゆっくりできる日が苦痛なのもあほらしい。 布団に入って三十分、そんなことを考えたせいで睡魔は訪れてはくれなかった。
思わず溜息をつきかけた、その時。少しの肌寒さ、布団を捲られたのだ。誰に、自分以外など、倉間しかいない。
混乱する間に入り込む気配、そして体温が、背中へ。寄せられた身体が、温かい。

「寝惚けました」
「無理がある」

ハッキリ聞こえた台詞は若干不満げ。自分でやっておいてその声のトーンはなんなんだ。
思わず即切り返したら、めげずに続投。

「じゃあいまから寝惚けます」

ますます無理があった。言い訳にしてももう少し、呆れる前に背中に手が触れる。

「もうぶっちゃけ何がムカついたとか覚えてないんですけど、アンタはむかつくし。  そのムカつく声も聞けないし、ずっとむすっとしてっし俺だってさあ!俺だって、」

話し始める声音は不機嫌で、どんどんと早口になり勢いも増した。
声を張り上げたところでいきなり様子が変わり、テンションが落ちる。

「悪かった、から、……すみません」

威勢はどこへやら。ぽつぽつ途切れる文言には後悔が滲み、ついにはか弱い音で謝罪が届いた。
胸に渦巻いて、こみあげてくる、もの。

「なんで後ろからくんの」

出した声は想定したより冷たい。びくっと分かりやすく震えたのが触れたところから伝わった。
とてつもない罪悪感。背中に当たる手がぎゅっと握られる感触。

「顔、怒ってたら、めげる」

怯えた響きで聞こえた内容が限界だった。
未だ抱きつかず、背中に凭れて手も添えるだけ。
感情に任せて身体を反転させた。びく、とあからさまに怖がる倉間を覗き込む。

「怒ってねーよ、……ばか」

補給するように強く抱き締めた。染み渡っていく体温に息を吐きながら擦り寄る。
最初、硬直していた倉間は安堵したようにもぞもぞと腕におさまった。
キスをしたい衝動を抑え、まずは口を開く。

「俺も悪かった、ごめん」

揺れた瞳の目元へ唇を当て、頬へも口付ける。

「なくなよ?」
「ないてねーし」
「ん、えらい」

柔らかく囁き、目を閉じるよう促した。優しく重ねて、ほんの少しだけ啄ばむキス。
安心した表情を垣間見て、自分も瞼を下ろし吸い付いた。ちゅ、と音が鳴ると倉間が息を零す。
ほとんど同時に目が開いて、見つめあいながら微笑みかける。

「まだ10時だけど、寝る?」

静かに、緩やかに瞬いた倉間はようやく背中に腕を回し、甘えた。

「―――ゆっくり、する」
「ん。ゆっくりしような」

うなじから掻き上げる仕草で髪を梳き、どちらともなく視界を閉ざす。
触れ合う唇を味わいながら、やっと呼吸を思い出したような感覚に陥る。
倉間が足りないと、息も出来ない。


戻る