足払い、かけたら思いの外クリティカルヒット ぼんやりとした意識で寝返りを打つ。 まだ眠っていたいような、それにしては違和感のあるような。 それが何かを確かめるより、手が動いた。枕元にいつも置いているはずの携帯を探す、が、当たらない。 寝惚けて飛ばしたかそれとも鞄にでも入っているのか。瞼を開けて見回そうとして、固まる。 自分の部屋じゃなかった。 「!?」 疑問符を飛ばしながら身体を起こす。若干のだるさが襲う、この感覚は―――酒だ。 そこまで思い至って場所を理解する。ここは南沢のアパートだった。 飲んだことは覚えているが、後の記憶がまるでない。 まさか飛ばすほど飲んだのか、自分が。 問い掛ける思考の処理が上手くいかないまま、相手はどうしたかと視線を巡らせると見事視線がかち合った。 「起きたか、おはよう」 「おはようございます」 ペットボトル片手に歩いてきた南沢は、見上げる自分へ差し出した。中身は水、要するにミネラルウォーター。 「どうも」 「お前、割ったとはいえ一本分ほぼ空けたからな。俺は他も飲んだけど」 半身が布団に埋まった状態で受け取る。 飲むのならと姿勢を変えて座りなおし―― そこを気にするならきちんと起きてベッドから降りればいいというのは置いて――蓋を回す。 近い位置に腰掛けた南沢がこちらを見つめる。 少しの気まずさを覚えながら口をつけた。 「キレて押し倒すほど俺が好きなんだもんな?」 飲み始めた瞬間、聞こえた言葉を集中力で受け流し、アルコールで渇いた喉を潤した。 半分ほど一気に飲み終え、口元を拭う。キャップを締めて、笑みを浮かべる。 「むせると思ったら大間違いですよ」 「それはよかった」 笑い返した相手が急に寄る。え、と呟く間に唇が重なった。 水で少しだけ冷えた口内が舐め回されて熱くなる。舌が擦れ、鼻にかかった声が漏れた。 思わず肩を掴んだところであっさり離され、笑んだ瞳が覗き込む。 「むせてるとこにするのは気がひけるからな」 「な、」 何を言い出すのか、混乱した隙に布団に沈められた。 水はいつの間にか取り上げられ、ベッドサイドへ。 あまりよろしくない雰囲気と相手の表情にシーツを握り締める。 「そんなに俺がすき?」 「は?」 覆い被さる体勢で聞かれ、間髪入れず素で返す。 薄く微笑んでいた相手はぐっと距離を縮め、息のかかる近さで拗ねたように。 「酔わないと言ってくんねぇの?」 ぞく、と背筋が震える。むしろ酔っているのは南沢だと言いたくなった。 昨晩いったい何をぶちまけたのか、そして素面のいまに何を求められても無理だ。 通り過ぎたはずのパニックが舞い戻って逃げたい衝動が駆け巡る。 「なあ、すき?」 繰り返される問いかけが耐えられない。 「あ、んたが言えよ」 「折に触れ言ってるだろ」 「いま言わなくていい道理はねーよ!」 むちゃくちゃだという自覚はあった。流すにしても肯定するにしてもいくらでも言葉はあるはずだ。 しかし追い詰められ促され言うのも出来ないからこそ自分だった。 もはや何をムキになってるかも分からない。往生際悪く叫んだ台詞に対する返答は気分を害するでもなく速やかに放たれた。 「好きだよ、抱きたい」 ふわり、緩む表情。 顔に熱が集まった。咄嗟に言葉が出ない。 「な、な、」 「手ぇ出してこないって随分ご立腹だったからな」 「記憶にございません!」 頬を撫でる仕草に限界を超えた。布団を跳ね上げ勢いで蹴りつけ、ようとしたが阻まれる。 「本気の蹴りは勘弁な」 膝で勢いを殺され簡単に押し付けられた。中途半端に足が開き、そこへ相手の膝が割り入ってくる。 洒落にならない事態に身を捩った。 「や、おれ本調子じゃな…」 「一晩中抱き締めて寝たのに我慢できると思ってんの、俺が」 言い訳をかき消す威力の本音は、ごく低い。 射抜くような視線が身体を縫い止めた。喉が鳴る。 「ほら、顔そらさない」 シーツに埋めかけた頬を指が嗜め、逃げられない。 もう耳どころか首元まで熱い気がする、手のひらへ汗が滲む。 視線だけをかろうじて逸らし、切れ切れに零す。 「あんたの、すきにすれば、」 「俺だけ?」 「ちが、」 気持ちは、欲しいのは、そのように続くのだろう短い返事に首を振る。 う、と詰まるも許されるはずはなく、指の腹が頬を撫でるのを感じながらおそるおそる見つめ返す。 「すきに、されたい」 瞠目する相手。ぴしり、固まってしまったのを後悔しながら見ていると、ぱたりと凭れ込んでくる。 恨みがましげに睨んでくるその顔は、赤かった。 「お前、それは反則」 |