過剰摂取に非ず


休日の朝というのは布団が恋しくなるものである。特に気温が低くなってきた最近は、更に。
そろそろ二つあるベッドの意味を真剣に考え始める今日この頃、意識の覚醒に伴って抱え直す体温も日常になりつつあった。
寝起き一番、開けきらない瞼でこちらを見た倉間が眠そうな声で言う。

「南沢さん、今日休みですか」
「だから一緒に寝てんだろ…」

そうじゃなくても、という事実はこの際どうでもいい。完全オフの朝に抱き締めて眠る幸福感を得られることが重要だ。常なら即座に突っ込んでくるはずの相手は、少しの間を置いて擦り寄った。

「じゃ、あっためてください」

さむい、と口が動いたかと思えば頬を押さえて引っ張られ唇が重なる。吸い付く軽い音が鳴り、長めのキスから離れた後の小さな吐息。今にも閉じそうな目元を親指で撫で、ふにゃりと緩む顔に笑い返す。抱く腕に力を込め、背中をさすった。

「あったかい?」
「…ん、」

満足げな相槌にも満たない音が落ち、そのまま聞こえてくる寝息の穏やかさ。髪の毛へ鼻先を埋め、唇を当てる。

「かわいくていやに、ならない」

ひとりごちて愛しい温度を堪能することにした。



自分も二度寝をしていたらしく、次に目を開けた時はそこそこしっかりした様子の倉間が覗き込んでいた。何度か瞬いてから、額へ手をやる。少し寝すぎた、頭が痛い。腕の力を緩めながら声をかける。

「おきた?」
「おきました」

もぞもぞと這い出した倉間がおざなりに布団をめくり、床へ降りた。

「みず…」

くぁ、なんて大きなあくび一つ、足取りのろのろ部屋を出て行く。ぼんやり見送ったのち、頭を掻き回して上半身を起こす決意をする。週末は疲れが一気に襲ってきて正直辛い。首を回すと音が鳴る。起きたからには食べることを考えねば、面倒くささでうだうだしていると倉間がドアを開けて戻ってきた。そのままベッドへ乗り上げたかと思うと、ぽすん。効果音でも付きそうな感じで凭れてくる。

「まだねんの?」

伸びてきた腕が、ぎゅう、としがみ付く。

「さみぃ」
「着替えろ」

どうやら気温に耐えられなかったらしい。パジャマで動けばそりゃ寒いだろう、ぽんぽんと背中を叩く。

「南沢さん、温めて」
「はいはい、ぎゅー」

甘えた声、仕方なしに改めて腕を回してやる。ぐりぐり肩口に額を押し付けてくれた倉間は、何故か不機嫌気味で顔を上げた。

「さっきとは別で」

視線が合う。睨んでいるようだがこれは、何かおかしい。

「くらま、寝惚けて」
「もう起きてます、起きたから」

言葉を遮って触れてくる掌は、先程とはまるで意味も意思も違う。色が映った瞳に合わせて唇が動く。

「したい」

これが季節のせいなら、もうずっと冬でいい。


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