Having fun?


「あー、本放送」

何気なくつけたテレビに映った番組アバン。
一瞬動きの止まった倉間を見て覗き込んだ南沢が間の抜けた声を出す。
勝手知ったる人様の住居。普通に出入りするどころか休日もまったり過ごしているのだから甘えすぎだな、とは思う。
相手はというと、倉間が寛いでるさまこそ嬉しいようで上機嫌に隣へ座る。
だが、いま流れている番組の収録を思い出すと頭が痛くなった。


数ヶ月前、円堂の頭から飛び出した企画はまたまた唐突。
説明に訪れた風丸の発言に全員が一瞬ぽかんとした。

「カラオケ番組が流行っているからな、乗っかってみようというわけだ」

ああそうですか、としか感想のない倉間をよそに盛り上がったり悩んだりしている面々。
とりあえず曲が被っても困るので、来週のレッスンで希望提出が義務付けられた。

「しつもーん!アイドルじゃないとダメですかー?」

勢いよく挙手する浜野に風丸は一度瞬いて、顎へ手を当てた。

「いや、制限は特にない。むしろインパクト勝負だな」

軽くもらった了承にガッツポーズ、する横で速水が微妙な顔をしている。
今回はユニット参加も認められたからきっと巻き込まれたんだろう。
自分へ火の粉が飛んでこないよう早急に曲を決めることにした。

そして翌週、各々の希望ソングを確かめた事務所一の苦労人は噛み締めるよう呟く。

「お前たち……懐メロ大会じゃないんだぞ」

しかし社長の許可はあっさり下りた。
迫る収録へ向けて、仕事の合間の自主練習が重ねられる。

本番当日、お楽しみということでお互いの持ち歌さえ知らないまま指定されたひな壇へ。
歌う順番はくじ引きで決まり、司会者の明朗な声が響く。

「それでは、歌って頂きましょう。南沢篤志さんで、『ね〜え?』」

スタジオがとてつもなくざわついた。



「まさか、あやや出してくるとは思いませんでした…」
「インパクトに全力をぶつけてみた」

初っ端からカメラ目線ばっちり振りもアレンジされて男性らしくなっているのに歌は原曲どおり。
時折小首を傾げたり可愛い仕草を入れてくるのが凄まじく鬱陶しかった。
ちなみに、セクシーかキュートか聞いてくるサビであからさまに自分へ飛ばしてきたウインクを倉間はまだ許していない。
二度も見せ付けられる相手の奇行にチャンネルを変えなかったことを本気で後悔する。
そう、今回のカラオケ大会は『女性ボーカルソング』の条件付だったのだ。
いかにチョイスするか、そして歌い上げる力量があるかが求められる。

「これは勝ったと思ったんだけどな」
「出落ちでしたね」

割と真顔で呟いた相手の発言を結果でばっさり斬り捨てた。
続けて歌う羽目になった倉間は山口百恵で南沢にガンを飛ばしたことを付け加えておく。
厳正な審査の結果、優勝に輝いたのは浜野と速水。
難易度の高い『待つわ』で予想以上のハモリを発揮し文句なしの受賞だった。
まさかの選曲ばかりでなく、天馬は歌い終わったあとカメラに向かってハキハキと喋る。

「俺、この曲がすっごく好きだから皆に聞いてもらいたくて!」

輝く笑顔の後輩が示すタイトルは『Best Friend』であり、なんとも爽やかな空気。

「南沢さん、あれが打算のない笑顔ってやつですよ」
「おー、まぶしくてとけるとける」

棒読みに舌打ちした。
続いて登場した剣城は安定の声量で歌い切り、最後はバク転まで披露した。

「工藤静香でバク転は新しかったな……」
「あいつ開き直ると結構なんでもしますよね」

既に観客モードで画面を見つめる二人の視線の先で真面目に受け答えをする若手アクション俳優。
そういえばこの後だったな、と思いながら展開を待つ。大仰な効果音と共に登場する新手。

「甘いな剣城!」

完全なる名指しと共に現れたサプライズゲスト白竜は完璧な振り付けである曲を歌い上げた。

「バレンタイン・キッス……うまいな」
「カメラ側から見るとすごいエンターテイナーですね」

――2月だったら優勝だった。

審査委員長の鬼道のコメントは至極クールであった。



「で、どっちが好き?」
「ハア?」
「未だかつてない嫌そうな返事だな」

しっかり真面目に鑑賞してしまった番組のエンドロール。
脈絡なく問いかけてきた中身はふざけていた。
感情のまま語尾を上げてやれば、淡々とした分析めいた返答。
イラつきが増す。

「それこそ馬鹿にしないでくださいよ」

自分の選曲になぞらえた訳でもないけれど、睨む視線をまっすぐに。

「アンタの属性に惚れてんじゃねーっつの」

くだらないことを言わせるなとばかり叩きつける。
表情のかたまった南沢がややあってぎこちなく言葉をこぼす。

「…………しってた」
「嘘つけ」
「いや、聞きたかっただけで、ほんと」

追い討ちにしどろもどろになる顔はどんどん赤くなっていく。
その頬を引き寄せて鼻へ噛み付いた。

「アンタどんだけちょろいんですか」



■それぞれの楽曲

南沢:ねーえ?
倉間:プレイバックPart2
浜野&速水:待つわ
剣城:blue velbet
天馬:Best Friend
神童&霧野:ハルモニア
狩屋&信助:ちょこっとLOVE
白竜:バレンタイン・キッス
シュウ:ロックンオムレツ
太陽:なんてったってアイドル


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