最終手段が直球とか


食後の片づけを終えて一呼吸、水気をタオルでふき取ったあたりで指先が肩をつんつんと押す。
首だけで振り返ったところ、肘の部分の衣服を引っ張り、見上げる視線で問うてきた。

「ダメですか」
「お前、その誘い方は卑怯だからな」
「知ってます」

淡白に一言、示すものに思わず即答。悪びれもなくさらっと答え、なおもじぃっと見つめてくる、相手。
本当の本当に卑怯でしかなかった。否定を前提で持ち出されて、ああそうだな、なんて言えやしない。 必然的に欲しいと言わされるのは自分なのだ。そもそも断るって選択肢自体がまた存在してないわけで、このやり取りに関しては倉間の完全勝利といえる。反応が悪いのに焦れたのか、背伸びと共に唇を突き出す。

「ん、」
「ああもうかわいいなくそ」

負けた気分でちゅ、と押し付ける。よりによって目を開けたまま、ねだった顔のままでそれはない。だからって閉じられても結局は可愛い、くそ、なんで無駄にこんな時だけ強気なんだ。そのまま凭れて甘えてくるのを釈然としない気持ちで受け止める。背中へ腕を回すと密着した状態でぐりぐり額を擦り付けてくる。なにがしたい。

「俺が無理なときどーすんの」

思わず零れた意地悪な問いに、ぴたりと動きを止めて顔を上げる。心なしか、不機嫌。

「無理な時はいわねーし」

一言目はハッキリと聞こえ、そののち視線を外してトーンが落ちる。
浮かんだ色は、怯え。

「いや、とか聞きたくない」
「言うかよ」

反射で答えた、自分で驚くほどの即答だった。
きょとん、と目を瞬いた倉間がじわじわと頬を染めていき、もう一度胸へ顔をこすりつけて、呟いた。

「さわって、ください」

片方だけ覗く、伏せた視線。ここで恥じ入るならもっとこう、最初に、あるだろ。
髪をくしゃりと掴むように撫でる。瞬間、瞼を閉じ、服を掴んでまた擦り寄る体温。耳の後ろから指でくすぐって、身じろぐ首筋を辿っていく。背中を手のひらでゆっくりさすれば吐息がひとつ。完全に身を任せる仕草、こみ上げる欲を感じて唾を飲む。

「なんで、さわってが言えて、したいが言えないかな」

自分の吐く息も既に熱を持ち始めた気がする、ほだされやすい、簡単だと常の倉間なら言うだろう。しかし腕の中のこいつはまだ何もしちゃいないのに酔ったように瞳を潤ませる。

「はやく、南沢さん、はやく」
「お前ほんとわがまま」

顎へ指をかけて催促を聞く。揺れる眼差し、密着したままで足の間へ膝が入ってくる。堪え切れない様子で指が肩へ食い込み、薄く開いた唇から舌が覗いた。

「ちゃんとねだるから、はやくしろよ」

なにがちゃんと、なのか。問い詰める振りをして理性を手放した。


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