いつだって理由を探してみて


凭れ込むよう抱きつく酔っ払いに嘆息して床の上で五分は経過。はっきりいって埒が明かない。
駄目元で何度目かの揺り起こしを敢行する。これで起きなければ布団を持ってきて被せてしまおうと思った。

「南沢さん、風邪引きますから」
「ん、くらま、キス」
「はいベッドでお願いしまーす」

駄目だこれ、そんな脳内完結で処置を諦める。甘えた声音は酒の力で、どうにも面倒くさい。いよいよ完璧に引き剥がしにかかったところ、むくりと相手が身体を起こす。突然の動きを訝しみつつ若干表情のない顔を覗き込む。

「起きれます?」
「ベッド、いく」

片言のような答えののち、体勢を整えた南沢が改めて腕を回してきた。
ひょいっと、まるで荷物のように抱え上げられ混乱する。

「は?!」

危なげなく運ばれるうち硬直がとけ、しかし暴れて落とされてもたまらないので抵抗できない。相変わらずぼんやりした顔は正気には微妙に遠く、こんなきびきびした酔い方があって堪るかという気持ちで一杯だ。すぐ辿り着いた寝室のベッドにお世話になった記憶はそう古くもないのがまたイラつかせる。至極丁寧な仕草で下ろされて、圧し掛かる顔はひどく嬉しげ。ほんのり紅潮した顔と眠そうな瞳が分かりやすい。

――――寝落ちコースだ。

いっそ他人事めいて思うのも無理はなかった。
泥酔していつもより自制をふたつみっつ飛ばしてくる南沢は思わせぶりに触れてきた矢先、ぱたりと崩れ落ちる。最初はいきなり重くなった身体にびっくりしたものだが、ひやひやさせやがってという気持ちと、シラフでなくとも無意識にそういう風に接してきているのだという事実がまぜこぜになってやり場のないむかつきを覚えた。起きていて理性を失くすのとは別で、あくまでゆったり迫ってくる有無を言わせない感じが最高に鬱陶しい。頬をさする掌さえ愛撫の一部、息を近づけながら服ごと身体を擦り合わせる。飲んでしまった唾を誤魔化すよう視線を逸らせば、だめ、とか囁いてくる声。

「な、キス」

了解も取らず唇が重なる。開いていた隙間から舌が入り、無造作に粘膜を絡め取った。逃げられない感触と小さく聞こえる水音。こするうちに鼻から甘い息が漏れ、それでも縋るのは癪でシーツを掴む。角度を変えては何度も、かぶりつくようにキスは続いた。もう呼吸が限界で仕方なく背中をなぞると、渋々のていで唇が離れる。

「くらま、くらまかわいい」

文句を紡ぐ気力もすぐにはわかず、くたりと見上げればうっとり呟き落とす悦。指が意味ありげに肩を辿り、腰に触れる。相手の膝が足を割った。一瞬、歯を食い縛り袖口の布を軽く引く。未だ夢見心地で微笑む彼が、どうにも腹立たしい。

「みなみ、さわ、さん」

なんとか出した声は酸素が足りなくて少し荒い。
片手を上げたらすり寄るみたいに頬が近づいてくれた。
立てられた膝へ太腿が当たる。

「みなみさわさん、きょうは、ねないで」

開かれた足を自ら閉じていき、僅かばかり力を込めた。
固定する膝へ触れるよう、腰を動かす。
蕩けていた瞳が、揺れる。

「途中でやめないでください」

すぐさま与えられた甘やかな痺れは意地を手放す助けになった。



目が覚める、隣を見る、後悔している。
そろそろこの流れに飽きそうだ。
頭を抱えて唸る寸前の南沢へ冷ややかな視線を向け、だるさ最高潮で突きつける。

「アンタやるだけやっといてそういうの俺に失礼だって気付け」
「ちげぇよ」

今回は思ったより復活が早かったのか即答だった。
何の言い訳かと待ってみると、ゆらり目線を合わせてぽつりと疑問。

「俺が寝落ちたの、何回」
「片手には満たないですね」
「一回二回じゃないのはわかった」

一人納得、そして深々と溜め息。つきたいのはむしろ倉間である。
疲れきった様子で髪を掻き回し、悔いるよう目を閉じて厳かに言う。

「気をつける」
「はあ」
「気をつけるから」
「まあそうしてください」

何をそこまで落ち込んでいるのかまったく理解できない本人を置いて、南沢は腕を伸ばしてくる。
拒む理由も見当たらないので、受け入れてやることにした。

「……あんなの、どうしろってんだ」

抱き締める前、早口で呟いたぼやきは、倉間の耳には入らない。


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