理不尽の是非


何をするでもなく座り込んでベッドに凭れてだべって、そんな繰り返しが当たり前になってきている。
随分こいつも懐いたもんだと傍らの相手に目をやった。視線に気付いたかこっちを見たので倉間側にある手を軽く伸ばす。

「手」
「もうその手には乗りませんけど」

軽くジト目で見てくるあたり、何か誤解されてる気がしないでもない。
今現在というより、俺の根本に対して。心外だな。

「ちげーよ、もう俺のもんだろ。そうじゃなくて、手ぇ繋ぐ」
「いまさらっとなんか言いやがった!…って、へ?」

とりあえず事実を示しておいて本題を口にしたところ、 噛み付かんばかりの勢いで――たとえば動物が威嚇する時のような感じで声を荒げたが、すぐに気の抜けた顔になる。
疑問が怒りを通り越したにしても意識の転換早くないか、むしろ後半聞いてなかったんじゃないか。

「だから、繋ぐ」
「……まあ、それくらいなら」

もう一度ゆっくり言ってみると、考えるような間の後、しぶしぶといった形で了承。
何されると思ってるんだこいつは。
そこまで期待されるなら応えてやりたくなるのが人間ってやつで、 微妙に逃げそうな手を捕まえて掌合わせ、指の隙間へ組むように差し入れる。

「恋人繋ぎー」
「ぶはっ」

絡ませながら、完全な棒読みで呟いたら倉間がふいた。

「アンタそれ往来でやったらガチで蹴り入れますからね」
「やらねーよ、お前の反応見て楽しみたいのに」
「正直にも程がある!」

笑っておいて容赦なく牽制してくるのがこの後輩の可愛くないところだ。
すぐ次の可能性を模索する姿勢はまあいい、しかし何故それを俺に発揮する。 だいたい、気を許した空間でこそ見れるものが見たいってのにまったくもってわかってない。 威嚇の態度へ戻りながら振り払う素振りなし、はたまた突っ込みに気を取られているのか。 面白くて面白くて、もっと弄ってやりたくなる。指を絡めたまま、腕を持ち上げた。

「この繋ぎ方って、なんか」
「なんか?」
「えろいよな」

見せ付けるようにわざとらしく指を動かし、きゅっと手を握る。
どこからか効果音が聞こえてきそうなくらい分かりやすく、倉間が固まった。

「はい蹴るの禁止ー」
「離せ離せいますぐ離せ!」
「なんだよ、何もしてないだろ」

我ながら慣れたもので、無理な体勢から繰り出されそうな足を膝でガード。 これは、向かい合ってたら絶対入ってる。隣から仕掛けて本当に良かった。 物凄い形相で睨んでくるが、明らかに照れている。正直楽しい。
繋がった手へ口元を寄せ、軽く唇で触れた。

「う、わあ!」

焦りの声と同時、右側頭部に鈍痛。かなり響く音がした、マジで。

「頭突きって、おまえ…」
「それでも離さないアンタもすげーよ」

お互いに自由な手で部位をさする。かなり間抜けな状態だ。
凄いのはそれでも一矢報いろうとするお前の根性のほうだと言いたい。
くそー、だの呟く倉間がそっぽを向きだしたので頭を押さえたまま呟く。

「あーいたい、すっげぇいたい、キスしてくれないと治らないな」
「アンタまじ一回どっか沈めばいいのに…」

とことんうんざりした表情に割と満足する。 そろそろやめておかないと本気で黙ってくるから今日はこの辺でやめておこう。 名残惜しさを感じながら組んだ手を離そうとした時、相手が身を乗り出した。
ちゅ。額の右上、さっきぶつけたあたりへ柔らかいものが当たる。温かい。
急いで離れる仕草がスローモーションで再生され、不機嫌そうに顔を染めた倉間が目に入る。
左手で捕まえた。同じく額へキスを贈る。

「ん、すき」
「っ…!」

衝動的に口にすれば、今度こそ蹴りが入った。つか踏まれた。
爪先あたりをかかとで思い切り踏みつける暴挙にでた後輩は、 さすがの痛みに無言になった俺が悶絶するのもおかまいなしにぽつりと言ってくれる。

「…おれも」

動けるようになったら覚悟してろ。


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