よくわかりましたね、忌々しい。


「溜めるのも身体に悪いしいいんじゃないですか」

語尾は上がらず疑問形でなく、だがしかし平坦なその言い草が何よりもその感情を表していた。
べつにー?生理現象ですしー?はいはいこの話終わりで、 矢継ぎ早に放たれる言葉にしばし、ぽかんとする。
そういえばさ、と切り出したのは自分だ。
電話口での不機嫌さを思い返し、好奇心のまま聞いてみただけの話である。
実際にはやってない、というか、月山国光は妙に堅物の集まりなので雷門のように軽く回ってこないのもある。
だからといって興味がないこともなく、初心なわけでもない。要するにやりにくい集団だ、あれは。
それはさておき、簡単な質問ひとつでここまで不快になるのも面白い。

「そういうの使ってたらお前怒んの?」

もともとそんなにある方じゃない倉間の愛想が一瞬で無になった。
すっぱり、句読点もなく言い切ってみせるその流れに思わず目を瞬く。
驚きのまま確かめるような口調で唇が動いた。

「いや怒ってるよな、お前怒ってるよな?マジで?」
「は?」
「…かっわ、」

零れ出る言葉、研ぎ澄まされる眼光。口元を押さえたのは最後まで言うとまずい、
なんて気持ちよりにやけるのを止められないため。

「は?」
「いや、俺もお前で抜いてるけど、くっ、」

もう一度繰り返す反応は先程より棘が増して、それが更なる笑いを呼び起こす。
堪えきれず音になると、いよいよ完全にドスがきいた声で睨みつける。

「ああ?」
「なにおまえ、かわいい」

キレ気味な態度がいっそいとおしい。
反比例の如く積み重ねられた機嫌はもはや極上の域。
心から漏れた感想と伸ばした手は思い切り振り払われた。叩くに近い、痛い。
どうやら、発言自体より話題を長々と引っ張ったことにマジギレの様子だ。

「怒ってんの?ああ怒ってるよアンタのそういうとこにさあ! ちょっとゆってみましたまじやめろ、まあそりゃ俺だって好みの女の子はいますよ? 可愛いと思いますよ!でもアンタで抜いたんだよ悪かったな!!」

最後の一撃はなかなかに強かった。
そんなことを、本気の、怒りで、口にする奴がいるだろうか、いや目の前に居る。
威嚇するよう睨みつける倉間は自分の言った意味を分かっていまい、怒りで理性が抜けている。
何もかもが心底―――…

「――可愛い、倉間」
「ばっ…」

ばかにするな、と言いたかったんだろう唇を塞いだ。元より大した距離もない、詰めるなんて簡単なこと。
引き剥がそうともがくのを押さえ込んで舌をねじ込む。噛み付いてくるのを好きにさせたら少しひるむ気配。
優しく頭を撫でて粘膜をこすった。悔しげに、それでも感じる息が鼻から抜け、力が抜けた頃にそっと離す。
いつの間にか肩口を握っていた手をすぐさま引き、瞳を潤ませながらも殺気立つのがたまらなくそそる。
額を当てて覗き込む。実に甘ったるい声が落ちる。

「ん、じゃあ今日は折角会ってるんだから二人でしような」
「勝手にしろ」

舌打ちひとつ、濡れた唇で呟かれたのは紛れもない了承だった。


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