肩越しの残照


なんてことのない休日、それこそ学生にありがちな繰り返しは大学だろうと健在だった。
自分で選んで自分で決めた、その道筋に後悔もない。
ただ、ただほんの少しだけ、頭の隅で引っかかっていつまでも落ちてきてくれないそれを未練と呼ぶのは知っている。 知っているから見ない振りで気付かない振りで悪あがきを続けているのだ。

全く笑えない。
三年生にもなって中学の後輩が忘れられないなんて。

相手はそれはまあ、小生意気な少年だった。
とにかく自分へは尊敬してるんだか軽んじてるんだか分からない態度が常で、 それが親愛の裏返しであるのも理解した上で、じゃれ合いに応じていた。
諸行無常とはよくいったもの、変わらない気がしたその場所は革命という名の旗が掲げられ、 付いていく気のない自分は早々に去った。それが、分かれ目というやつだ。
和解はしたし、何も引きずっていない。むしろ引きずっていないからこその今とも言える。
疎遠なんて時間の経ち方は、思い出が美化されていくから手に負えない。

ぼんやりとした思考を遮ったのは着信音。
無造作に確認した画面の文字に目を見開いた。
倉間典人。ありえないと疑いながらも反射的に出る。

「はい」

短いコール音で受けた通話は見事に無言。
悪戯か、まさかの悪戯電話なのかと警戒で音が低くなる。

「もしもし?」
「…あ、あの、」

聞こえた声に端末を握る力が強くなる。
電子音を通したそれは、緊張したような焦ったもの。
心がざわつく。返事をしていいのか、それとも。

「………倉間?」
「は、はい」
「久しぶりだな、どうした」
「浜野が同窓会する、って」
「お前らまだつるんでんの?」

悩む思考を遮るように呼びかける。 返事に対し自分でも驚くほど優しい声が口をついた。
間違いかもしれない、だの、そんな思考が端からなかったことに自分で驚く。
しかし聞いた瞬間に、あの後輩の顔が浮かんだのだから仕方がない。

話を聞くと思ったより本気の規模が企画されているようで、近々話を聞いた三年生の誰かから連絡もあるだろう。
自分に橋渡しを頼まれるのかと思ったが、どうやら倉間の様子からして違う。
幾らか雑談を交わし、会話が続いたあたりでおもむろに切り出した。

「悪い、俺そろそろ出るんだよ」
「あ、はい」

連絡先を提示して、通話を終わらせる。
息を吐いてソファに凭れかかった。
すらすら嘘が生まれた、出かける用事もないのに。
限界だった。それが現実だという認識が、許容量を超えていた。
アドレスと簡素な挨拶を送って、両手で携帯を握る。

「あー、あー…やべー」

じわじわとぶり返してくるこの感情、自分はこれをよく知っている。

「好きとか、ねぇよ」

片手で髪をくしゃりと掴んだ。


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