不整備地帯 久しぶりに会った倉間がよく分からない臨戦態勢を取り始めた。 部屋に入って数分、窺うような図るような距離で睨み合っている。 なんだこれは飛び掛られるのか俺は。 じりじり詰め寄ろうとするのに思わず身構える。 「なんだおまえ」 「いえべつに」 「別にじゃない」 不自然な会話も探り合い、また無言になった空気が警戒心を生む。 ふいに伸びてきた手が肩を掴む。こいつ体重掛けてきやがった。 強い力にたたらを踏んで飛び込む身体を受け止めると、背伸びした倉間の唇が頬に触れた。 相手を支える腕が硬直する。 「って、したかっただけですけどなにか!」 言い捨てた声色は自棄と恥が混ざっていて是非とも顔が見たいところだが、自分ものっぴきならない状況のため 無言で背中へ腕を回して抱き締める。 「あっ、照れてんだろ絶対照れてる顔みせろ!」 「断る」 じたばた暴れる相手の耳元へ唇を寄せた。 「無理に見ようとすんなら目を塞ぐしついでに口も塞ぐ」 「…ずりい」 途端に大人しくなるのが腹立たしいというか、 じゃあ何でさっきみたいなことをするのか煽りたいのかどっちなんだと問い詰めたい。 しかし、恥じらいで口にしたと思いきやそうじゃなかったことを知る。 「そういう顔見れんのが特権てヤツじゃないんすか」 「俺のプライドが邪魔をするから却下」 「ガチで照れてんですか?!アンタ意味不明!」 「うるさい」 意味不明なのはお前だ馬鹿。拗ねるような口調は何なんだそれ。 まずお前は前提がおかしいんだ、もう一度よく自分を振り返ってみろ。 アドリブに弱いつもりはないが、予想にも限界ってもんがある。 「…あんま自分からくっついてこないくせに」 「だから狙ったんすよ」 さらりと言い返すのがまた小憎たらしい。 背中へ回された手がぽんぽんと叩いてくる。 「顔見せてくれたらもう少しサービスしますけど」 「今日のお前なんなんだ」 むしろ楽しげに続ける声は明るい。 心からの感想を進呈したところ、ふっと言葉が途切れ、言いよどむような間の後、ぶっきらぼうに呟く。 「……会いたかった、だけです」 よりによって身体をすり寄せて、言った。 「しばらくデレんの禁止」 「だから顔見せてくださいって!」 口早に宣言すれば抗議の声。だからもくそもない。 照れ隠しかぎゃんぎゃん騒ぐのが煩かったので、耳へ舌を這わせたら静かになった。 今度は抑えなくていい声を出させるために、低い吐息で名前を呼ぶ。 |