共有、リピート


どうしてこうなった。訳の分からない展開に頭を抱えることさえ出来ず、高度が上がってそろそろ数分。
窓の外の景色は倉間の戸惑いをよそに切り替わっていく。逃げることの出来ない封鎖空間、ここは観覧車だ。
フリーパスチケットがあるのは良かった、観覧車自体はまあいいと思う、嫌いではない。
しかし、二人限定です、と爽やかな笑顔で言われた上に、じゃあ次のに乗ります、と即答した浜野のせいでとんだ罰ゲームになった。
何が悲しくて男二人で素敵な景色を眺めなければならないのか。
なんだかんだとばたばたした宇宙の戦いは無事に幕を閉じ、落ち着けたのはほんのつい最近だ。
二人きりになるなんて随分久しぶりのような気がする。
そもそも、この召集はイレギュラーなもので、終わってしまえばまたいつもの日常に戻ってしまう。
全て踏まえての友人の気遣いかもしれないけれど、いきなり密室に押し込まれても会話に困る、というか無言から
始まったせいで今更何を言ったらいいのか分からなくなった、が正しい。
自分の膝から下に固定された視線を何とか上げて、相手を見たらみごとかち合った。
頭が真っ白になる。

「す、」

とにかく何か言わなければ。

「す、好きな食べ物はナンデスカ」
「ぶはっ」

完全に飛んだ思考から弾き出されたのは意味のない質問で、目の前の先輩は思い切りふき出してくれた。
倉間自身も、お見合いか!と自己突っ込みと猛省で忙しかったが、笑いをおさめた南沢は絶妙な角度で小首をかしげる。

「なんだと思う?」

――殴りてぇ。

瞬間芽生えた殺意めいたものを理性で抑え込み、膝のジャージをぎりぎりと握る。
聞き取れるかぎりぎりの音程で呟いた答えは届いたようで、瞳が優しく細められた。

「ん、正解」

心底嬉しそうな顔をしないでほしい。また文句が生まれそうなその時、相手が視線を窓へと促す。

「ほら、そろそろ頂上だぞ」

ガラスの向こうに広がる俯瞰風景。タワーから見下ろす望遠鏡とは違う光景に思わず声をもらした。

「す、げえ……」
「写メるなら早くしろよ」

微笑ましげな相手にムカつく間も惜しく、携帯で数度シャッターを切る。
保存を確かめてゆっくりと変わる景色を眺めることしばし、南沢がぽつりと零す。

「せっかくなのに外も見ないのかと思った」

ぎゅ、と胸を掴まれたような感覚に陥る。わきあがる罪悪感。
訪れた機会を無為にしかけたのは自分だった。

「あ、あの」
「倉間」

呼び掛けはほぼ同時、掴まれた肩と交錯する視線。
軽く触れるのは、温かさ。

「ま、これくらいは役得で」

涼しくのたまう南沢は、掠めた唇でふわりと微笑む。

「落ち着いたら続きしような」

全力で胸倉へ掴みかかった直後、地上に到着のタイムリミットが訪れた。


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