調子に乗ったら咳き込んだ過呼吸


「倉間、くらま」

呼び声は至近距離、普段ならとっくに突き飛ばすなりなんなり抜け出ているこの体勢。
それが一気に振り払えない原因はそう、非常に情けなく、自分は甘いと痛感する。
寝惚けてじゃれてくる南沢さんをどうするか考え始めて、そろそろ五分が経過した。
きっかけは転寝、ソファで寝こけているのを特に警戒もせず覗き込んだのが運の尽き。
引っ張られて抱き込まれ、相手に乗り上げる形で納まってしまった。

「かわいい」
「どうも」
「かわいい」
「はいはい」
「かわいい」
「わかったから寝るなら寝ましょうね」

終わりのない台詞に照れる気にもならない。
寝惚けてまで繰り返すあたり、口癖を通り越して―――考えるのをやめよう、死にたくなる。
諭すように声をかけながら、どう寝かせようかと思案。
抱き締める片手を外そうと腕を動かしたところ、頬に当たるのは温かい感触。皮膚だ。
手の甲で一度撫でて、手のひらを当ててくる。ふんわり、笑った。

「かわいい」

思いがけず真正面から受け止めてしまい、息を飲む。
視線から逃げるように目を逸らし、相手に体重をかけるのも忍びないのでソファーの背に手をかけた。
しかし、起き上がろうにも意外と抱き締める力が強く、抜け出せない。頬の手がくしゃりと髪を触る。


「よしよし」

撫でる仕草と共に浮かせかけた身体を戻される。なんてたちの悪い。
顔がさっきより近かった。支えるように抱き締める手が背中をなぞる、 さらりとした動きなのにぞくり、と何かが走る。

「かわいいな」

耳の後ろを指がなぞる。 擽ったさに首を竦めるとそのまま襟足を掻き分け、うなじを撫でた。
背筋が震える。つい視線を向けると嬉しそうに笑う。

「ん。こっち見て」

手を滑らせて顎まで戻し、くい、と引き寄せられた。
唇が当たる、触れるだけですぐに離れ、背中の手が腰を撫でたと思うと裾から入り込んだ。

「ちょ!」

素肌を探る手のひらは背骨を辿るよう。 手が動くぶん、服が捲り上げられる。
外気に皮膚が触れ、混乱する間に肩甲骨へ指先が当たる。

「んー、」

晒された腰の辺りへもう片方の手が伸びた。 横から掴むような仕草、親指が差し込まれ腹を少し撫でる。
びくりとして隙間ができ、今度は掌が入り込み中指でへそをくすぐる。
服を捲った手はするりと抜け出るとまた頭を撫でて、動けない俺の唇を舌が舐めた。

「ふ、」

反射的に目を瞑ると腹の手が滑るように移動した。入り込む、先は。

「マジで待て!」

ついに叫んだ。流される訳にはいかない。
しかしズボンどころか下着を通り越して指が触れた。

「…っ!」

明らかに目的を持った動きに相手の肩を掴んだ。

「可愛いな、倉間」
「あ、」

触れられて動いたぶん、手が余裕を持って握り込む。 甘く漏れる声、そして耳に届いた音はやけに明瞭だ。
必死に相手を睨み付けると、うっとりと笑う瞳が受け止める。

「寝惚けてると思った?ざーんねん」

言葉に合わせて指がやんわりとこする。艶めいた音を必死に殺しながら衣服を握り締めた。
少し力を込めて刺激されてつい声が落ちて、満足そうな相手が囁く。
その顔はつくづく御しやすい、とでも言いたげだ。

「お前、俺の反応が鈍いと甘いもんな」
「……けど」
「ん?」

調子に乗りまくったその態度に苛立ちが頂点に達し、ぼそぼそと口にする。
完全なる勝利者の余裕で聞き返す宿敵、目線を合わせ、言い放つ。

「起きてんなら、いいですけど」

短い静寂ののち、意味を理解したその表情にしてやったりと笑いかけた。


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