身勝手


「南沢さん、寝るならせめてベッドで寝てくれません?」
「んー」

答える声は明らかに聞いていない。
まあ当人の部屋だからどこで寝ようと勝手だし、起きてから身体が痛くなろうが知ったこっちゃないのだが、
そんなに広くもない面積で机と合わせて中途半端に通路を塞がれると通るに通れない。
最終的には容赦なく跨ぐものの、一応声をかけてみたところ、この有様だ。
本当に寝ているというよりはだらだらと転がったまま動くのが面倒になったという感じかもしれない。
このまま上を通って帰ってやろうかと考えた頃合いで目を瞑ったまま相手が呟いた。

「倉間がちゅーしてくれたら起きる」
「足が滑りました」

迷わず足を軽く上げる。衣服越しに感じる若干の体温。

「先輩の腹踏むか?」
「踏みましたけど」

やっぱり起きていた南沢が瞼を開けて不機嫌そうに倉間を見る。
靴下を引っ張るように掴んできたので振り切って離すと舌打ちして半身を起こす。

「あーかわいくない。知ってるけど、かわいくねーな」
「俺の性格に言うのが間違いですよね」
「こんだけ絡んでんだから構って欲しいの気づけよ」
「ガキですか」

んなことで拗ねんなよ、と心から思ったがなんとか堪えた。
足が出たことはともかく、その方向での非は自分にはない。というかあってたまるかという気持ちだ。
呆れと馬鹿にした態度を前面に押し出した発言に、相手がますますへそを曲げてくる。

「んなこといったら、」
「いったら?」

しばしの間。
見下ろす後輩と見上げる先輩。前者が淡々とした声で問う。

「別れますか」
「いやだ」
「浮気でもしますか」
「お前にしか興味ねーし」
「……どうも」

即答の連打に質問しておいて居心地が悪くなる。
軽口のつもりで乗ったのにこれじゃまるで罰ゲームだ。
さすがに踏んだ足はとっくにどけているが、どんな状況だと頭の隅で思う。
身体をちゃんと起こしてベッドに凭れた相手は自己完結した様子で両腕を上げて伸びをした。

「当て付けみたいなこと言ってやろうと思ったけど、どうせお前とイチャイチャしたいだけだしやめる」

さらっと口にしてくれた内容は聞き流すには突っ込みどころしかなかった。

「…へぇ」
「照れたか?」
「うっぜ、」

俯いて小さく呟くしか出来ない自分を下から覗き込むようにして相手が笑う。
腕で顔を隠しながら憎まれ口を叩いてみるが、ますます調子に乗らせたようだ。
片腕を取られて引き寄せられる、思い切りバランスを崩す形で腕の中へ。
危ないと文句を言うよりも早く、耳元で上機嫌な囁きひとつ。

「かわいくない、かわいい」
「どっちだよ」


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