「アンタさー、たまにすっげぇポカしますよね」

余韻もくそもない、そんな文句を言った相手は今まさにそれをぶち壊しにかかっている矛盾をどうするのか。
言ってみたとして、アンタとは違いますだの可愛くない台詞が帰ってくるのでまあ大人しく聞いてみる。
数え上げるごとく指を折って――そんなものは飾りのような動きできっと意味などないけれど――軽い世間話のノリで言う。

「ちゃんと予定組んで、しっかり進めて、じゅんぷうまんぱーんってとこでしょうもないことすんの」

わざわざ一部だけ声色がはしゃぐのが無駄に細かい。普段は微笑ましく思えるそれが、今はなんとなく鼻につく。

「やめとけばいいのにさー、カレー作っててちょっと濃いから水入れたら足しすぎたとか。もうルーねぇし買いに行かないとって」
「手間が増えても食えればいい」
「取り返しがつくばっかりとは限りませんけど」

ひとつ遠回り、足りないものは補えば満ちる。結果論は気に食わないか、最初に比べて早口で冷たくかかる。

「ふうん」

感慨もなく、相槌。こんな時ばかりしっかり見つめてくるたちの悪さもなんともはや。
この距離で、関係で、時間をもってして、酷すぎる態度だと思う。
枕へ突いていた肘を戻し、まっすぐ見やる。

「で、なに。遠まわしじゃないと言うのも怖い?」
「別に」

短い、そしてかたい返事。言いたくなければやめればいいのに、いつだって自分で自分を追い詰めていく。
瞳に陰りを乗せながら、責めるみたいな口調だった。

「損する道わざわざ選ばなくてもいーんじゃないすか」
「お前が言うんだ、それ」

シーツの上から背骨をなぞる。おざなりに被っただけのそれは肌寒さをしのぐための布団未満。
尖った骨へ人差し指の腹で力を込めた、とはいってもゆるくゆるく、くすぐる程度。
ひくん、と震えた肩に薄く笑って、露出した皮膚を撫でさすりながら顔を寄せる。

「俺には得しかないんだけど、お前は損するわけ」

見開いた目が秒数をかけて悔しげに眇められていった。
噛みそうな唇を指で邪魔すれば、苦虫を噛み潰したようにぽつりと落とす。

「…………そーゆーの、ひきょい」
「ふ、どっちが」

顎へ指を滑らせて、くいと持ち上げる。不満げな表情、抗いはしないが受け入れには少し足りない。

「世の中ってのはな、意外と上手くできてんだよ」

往生際の悪さに引導を渡す。

「だから、おとなしく愛されとけ」

途端、顔を染め上げる従順な可愛さをもっと分かりやすく示して欲しい。


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