お手付き、制限なし


本日も絶好調な後輩の暴言は流せば流すほど悪化していくばかりなので、思い付きをいいことに疲れた気持ちで呟いてみた。

「ワンペナ」
「はい?」
「そういうあからさまな態度取るごとにペナルティな」
「なんの」
「キスとか」

特に考えてなかった部分を適当に答えると眉が寄る。
ソファに腰掛けた相手と床に座る自分、見下ろされる高低差がまた棘の威力を増す。

「なんでアンタにそんな権限あるんですか」

まずは中身を聞いてからの確実な切り捨て、取り付くしまもないとはこのことか。
別に通るとも思ってなかったにせよ、迷いなく言い切る口調としてはどうなんだ。

「…お前さ、一回聞きたかったんだけど」
「はい」
「俺が先輩だって認識してる?」

なんだか頭痛さえ覚えて言葉を落とせば返事だけはすぐにくる。聞く自体が馬鹿馬鹿しい問いかけに対し、うわ、と遠慮なく引いて冷たい表情。

「上下関係を盾に命令とか……そんな人だと思いませんでした」
「軽蔑の方向か」

そこまで否定される予想はなかった。頭を抱えたい気分で額へ指を当てるで留まり、冷静の二文字を心で唱えながら改めて見つめる。

「最近、お前から尊敬を感じ取れないんだけど」
「はあ?めちゃくちゃしてますよ」

即答にも程がある被せから何を察しろと。

「心外なの俺だからな?この流れおかしいからな?」

言ってる意味がわからない、そう書かれた顔に俺の台詞だと返したい。少し強くなってきた語調に倉間の目付きが変わる、あまり嬉しくない色合いに。

「……南沢さんめんどくさい」
「お前だ」

呆れ果てた言い草にそれこそ即答。投げっぱなしの散らかしっぱなし、心の環境保全は最悪だ。ぶすくれた顔もそろそろ十分、膝を立て伸び上がり肩を掴んで引き寄せる。覗き込む瞳が冷めた色とぶつかった。

「ペナルティもくそもその場で精算して欲しいってか?なに、ここで襲われたりすれば満足か」
「飛躍がきもい」
「へえ」

この上でまだ反抗する気概だけは褒めてもいい、笑いに呼応して語尾の音が変わる。一度思えば止まらなかった。

「なし崩しになんの当たり前だと思ってんだろ」
「言いがかり」

外そうとする視線を許さない、顎を押さえて絡め取る。

「今日はいつ従順になんの」
「しね」

途端に激しく塗り変わる表情。吐き捨てる声も、それでいてけして逃げようとしない身体も全てが酷い罠だ。

「いいよ、誘われてやるよ」

唇を掠める距離で囁きかける、一瞬だけ揺れた瞳は錯覚どころか導火線の端。

「意地張ったぶん、かわいくなるもんな?」

猫撫で声で微笑みかけ、震える身体を押し倒した。


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