システムエラー対処なし


くると思った。まさに今だろうな、というタイミングできたものだから瞬きもしない。
絨毯の上、凭れるクッションから起きて動いた南沢が当たり前のような態度で目を閉じる。
間近へ寄せられた顔の意味合いが理解できることと受け入れられるかは別の話だ。
イラッとして反射的に鼻に噛み付いたところ、ぱちりと開いた瞳。少しの距離を取って睨む自分に向けられる唇。

「キース」
「言ってくんのかよ!」

一度では諦めないその姿勢はこんな時に発揮する必要はなかった。
すました顔の相手は気分を害した様子もなく。

「伝わらないと思って」
「伝わった上での行動です」
「知ってます」
「うぜえ」

開き直って答えてきた。割と殴りたい気持ちがわきあがる。
心のまま言い返すと少しの沈黙。
やがて、芝居がかった仕草でやれやれと肩を竦めて。

「……前はわたわたしてたのに」

残念そうに聞こえる口調がますます苛立ちを増加させる。
だがしかし、ここで激昂しては思うツボだ。
この相手はどうも自分が感情を爆発したり露わにすると喜ぶ性質(たち)で、
それはもう満足げな笑みを浮かべてくるからやっぱり殴りたい。むしろ趣味が悪い、悪すぎる。

「慣れました、つーか呆れた」

とことん淡々と答え、胡乱な視線を進呈。
つまらなそうな空気を纏った敵は尚ものたまう。

「普通付き合いが深まると角が取れてくるもんだと」
「鋭利にさせてんのはどこの誰ですか」
「はーい」
「良いお返事で!」

間延びした声に思わず床を叩いた。ばん!と響く音に、おお、とか言われたが鬱陶しい。
睨みつけた先ではまた距離を詰めてきた馬鹿がいて、瞼を閉じるより早く叱り付ける。

「しつこい!」
「してくれないと拗ねる」
「既にだろ!現在進行形だろ!」
「じゃあ拗ねてるなう」
「うぜぇーーーーーーーーーーーっ!!あと『なう』の使い方違います」

アホくさいやり取りは終わりが見えず、真顔で繰り出された発言に二度目の床攻撃。
力一杯叫んだあと思い出したように指摘したのも仕方ない。早口で続いたそれに真顔で返された。

「お前もう少しツッコミから力抜いてもいいんだぞ」
「なら拳に込めます」
「愛を?」
「ポジティブか!」

そろそろ床を叩くのも痛いのでクッションへ掌をぶつける。
迫力のない音が幾度も響き、見守った相手がなにやら口元を笑みに変えた。

「まあいつもこもってるもんな」
「そうですけど!」
「え」

調子づいた言い草へ腹立ちまぎれの肯定をひとつ。
自分で言っておいて瞬間固まったその人は浮かべた余裕もどこへやら、こちらを見つめてくるばかり。
舌打ちを鳴らし、散々動かした右手で頭を掻く。

「込めてますけど、通じてないんですか」

もう一度睨む。先ほど音を発した形で止まった唇がぎこちなく開き。

「や、通じて、る」

途切れ途切れに答えたのち、口元を押さえて俯いた。
僅かながら染まった色はもちろん丸見えである。

「アンタなんでここで照れんだよ」

ほんと馬鹿だろ、と追撃しても動かない。
思わず深く深く溜め息をつく。

「ほら」
「?」

顔の下半分を隠すのを剥がそうと手首を掴む。
疑問符で返る視線にすげなく返す。

「キスしたいんでしょ」

予想通り力の抜けた手を退けて、目を見ながらもう一言。

「ばーか」

閉じないで触れる音を立てた。


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