おいでおいでかわいいあなた


軽く持ち上げてすぐの距離、荷物のような抱え方に文句も出なかった。
ベッドに身を沈ませて、倉間が耐え切れないよう笑う。

「ふは、ほんとに運んだ」
「…おいこら」

くすくすと楽しげに零れるのはバカにしているのではないと分かりつつも、 どちらかといえば無邪気な笑い方をそこで発揮しなくてもいいんじゃないか。 不機嫌さを引きずった声で呟けば、下ろしたままの中途半端な体勢から引き寄せられた。 体重をかけないよう倒れ込み、しかし抱き締められればそれもあまり意味はない。 両腕で自分を抱え込んだ倉間はぎゅう、と力を込めたあと片手で後頭部を優しく撫でる。

「はいはい、南沢さんいい子いい子ー」
「お前こういう時ほんとむかつくな」

完全に子供をあやすそれだった。思わず手を突いて顔を上げる、抱き締める力は抗わず少し緩まる。
予想通りのふてぶてしい笑みでさらりと言う。

「普段は10の二乗ほどむかついてるんで」
「普通に100倍っていえ」

口の減らない倉間は文句も受け流し、あろうことかその唇を突き出した。

「ん、」
「てめ」
「ねだられんの好きでしょ」

一度目を閉じて、こちらの抗議にぱちりと開ける。
あっさり言ってのけるその態度がもうなんといったらいいかわからない。

「…すき」

掠れた音と共に唇を重ねた。
ゆっくり下りる瞼、柔らかい感触。少し長めに吸い付いて、離れていく。

「素直ですね」

目を開けた倉間はぺたぺたと両手で頬に触れ、ふっと笑って撫でるように掌を滑らせる。

「俺、お前に比べたらそれこそ10の三乗な」
「基準値低いけど大丈夫ですか」
「まさかの自虐」

言い返しにも眉一つ動かさず、むしろ真面目に聞いてきた。こいつは開き直ると強いのが嫌だ。
開いた唇から舌先が現れ、隙間を舐めてくる。思わず押し付けると先程より長い口付け。 食みながら頬へ手を添えると、髪の毛が弱く掴まれた。たまらなくなって息を吸うために離す。
は、と零れる吐息はお互いに。少し目元に赤味の差した倉間が、見つめる。

「…舌は?」
「舐める」
「じゃ、開けててくださいね」

事も無げに言い、軽く開いたままの口に噛み付く仕草で塞がれる。 このあたりでほぼ機嫌の治まってる簡単さが我ながら情けない。 相手から絡んできた舌を迎えて好きにさせ、擦り寄ったのを機に強く吸い上げた。 何度もこするうち、甘く漏れてくる息に思考が酔って、夢中で口内を蹂躙する。 温度が混ざりあってぼんやりしながら舌を解くと糸が引き、 それが落ちるより早く倉間が頭を押さえる手に力を入れた。

「ダメです」

熱に浮いた視線。引きかけた舌を捕らえられ、そのままくちゅくちゅと擦り合わせる。 時折零れる声は鼻から抜ける甘さとは比べ物にならないくらいはっきりと耳に届き、 口外で絡める水音が一層煽り立ててきた。髪を書き上げながら小指で耳朶を擽る。 身じろぎと一緒に吸い付いて、指がぐしゃりと髪を乱す。
相手の足が動く。曲げられた膝の当たる、箇所は。目を瞠った。 ぴちゃり、名残惜しげに離される舌。開かれる瞼の下にあるのは、濡れた瞳。 股間を再度ぐり、と押し上げて、ん、と息を漏らす俺へねだる。

「俺も甘えたいです」

身体の熱さが瞬時に増す。ね、と喉仏をなぞる指。 肩を掴むと、呼びかけが甘く響いた。
手の動きに合わせて、見透かしたように笑う顔。
何もかも捕らえられているのを感じて、貪ることに集中した。


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