共鳴現象すなわち直情


倉間の機嫌が悪い。
自分で言うのもなんだが今に始まったことじゃない気はしている。 とはいえ、今日は何もしていないし、今日はって言い方がもうダメだとか脳内の倉間が手厳しい言葉を投げてくれたのはともかく俺に非はないはずだ。
第一、久しぶりに会ったっていうのに、ぶすくれた顔をキープされるとそれなりに辛い。
そして不機嫌は伝染する、そんな顔も可愛いなだの浮かれた台詞を吐くには空気がだいぶ淀んでいた。

中途半端に距離を取られるのも気分が良くない。 とりあえずこっちを向け、そんな意思表示で肩へ手を伸ばす。
目に見えて倉間がびくりとした。

「触らないでください」

跳ね付けられて腕が落ちる。
瞬間、やってしまった、という表情へ変化。

「や、あの、ちが、」

焦ったような声を聞く耳持たず手首を掴み上げた。
すぅっと頭が冷えて、いや逆か、沸騰しすぎて感覚がない。
何のつもりだと口を開きかけ、ちょうど親指の当たる位置でそれを探り当てた。
脈拍が、速い。しかもすごく。間抜けな表情で固まった俺を見て、倉間が諦めた様子で言う。

「めちゃくちゃどきどきするから、あの、むりです」

バカじゃないのかこいつ。照れるにしても分かりやすくしたらどうなんだ。
目を逸らすな俯き加減になるな、それが羞恥からくると分かれば感じ方は変わるんだよ。
とにかく一気にテンションが上がったのをいいことに手首を引いて自分へと寄せる。
自然と顔が緩む。

「会えないうちに惚れ直した?」

両手のひらで頬を叩かれる、むしろ挟まれた。大して痛くもない。
この暴力で訴える癖は何とかならないか、と思った矢先、未だに目線が合うのを避け続ける倉間が呟いた。

「………それでいいですけど」

さすがに固まった。

「触ったら、なんか、もう、うわ」

自分で言っておいてテンパり始める可愛い後輩はようやく顔の温度を上げていく。
じっくりと見つめたのち、軽く目を閉じる。息を飲む気配。
近づいてくるのを感じながら待っていると噛み付かれた、鼻に。

「そこはキスするとこなんじゃないのか」
「すいません、あまりに嬉しそうなんでついイラっとして」
「正直で何よりだな」

目を開けて抗議すれば、赤くなってるくせに悪びれなく答えたのでやっぱり倉間は倉間だと思った。
このくらいデレれば十分な方か、と前向きに考えたところ、鼻先へ触れる温かさ。
柔らかく当たった唇が離れていく。 再度見つめて、問う。

「くち、は?」

ぐ、と一度引き結んだ後、身を乗り出して押し付けてきた。素直じゃない。
弾力のある感触に笑い、額をこつんと当てる。
見つめ合いながら何度も食んで、軽い口付けを繰り返す。
吸う時の小さな音が積もっていくような錯覚。

「このまま溶けたらいいのに」
「いやですよ」

隙間から漏らした気持ちに即答でケチがつく。
お前ここはせめて空気読めよという感情が正しく伝わったか、ちがいますよ、と不服げな声。

「別じゃないと、アンタにさわれない」

我慢できずに舌を捻じ込んだ。


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