アンコール・アゲイン それを聞いた倉間は表情を変えもしないで自分を見つめた。 やっぱりな、と思うのは落胆ではなくて冷めた諦観によるもの。 分かりきった答えが繰り出されるであろう唇が動く。 「嫌、です」 「え」 「……え?」 予想だにしなかった返答に思考が止まる。 自分の驚いた表情を見て相手が遅れて気の抜けた疑問系を零す。 動けないまま見つめ返すと思い出したように言葉を繋げた。 「あ、じゃない。わかりました」 ちょっと忘れ物しました、みたいな顔で返答を貰っても全くもって納得が出来ない。 「じゃなくないだろ、なんだいまの」 「いいです」 「よくない」 ようやく復活して異議を申し立てると、あっさり拒否される。 勿論、良い訳がなかった。 必死になる立場とやらが明らかに逆な自覚はあれど、流せる態度でも答えでもない。 粘る自分に倉間が不機嫌な声を出す。 「別れたいんじゃないんですか」 「お前いやっつったろ!」 「勝手に口が動いたんだよ!」 勢いで叫んだら叫び返された。しかも被せて。 まさかの逆切れ。驚くより何より倉間が声を荒げてきた事実が頭を回ってまともな思考が出来なくなる。 無意識に腕を伸ばし、凭れるように抱き付いた。文句はなかった。 肩口へ顔を埋め、くぐもった音で短く言う。 「…嘘」 「ちげぇし」 即の切り返しは苛立ちが混じる。僅か顔を浮かせてぽつりと呟く。 「だから俺の別れようが、うそ」 「はあ?!」 「もういい、もうわかった」 完全に、ふざけんな何だこいつ的怒りを買ったようだが今の自分にそんなことはどうでも良く、 情けなさの滲む自己完結を口にして、ただただ倉間を強く抱き締めた。 「…なんてことがありましたが」 「甘酸っぱい青春だな」 成人に伴い飲酒も解禁、宅飲みでサラミをつまみながら思い出話に花が咲く。 素晴らしき模範解答が気に食わないか、相手の視線が意味を込めて固定される。 「うっわ、って顔すんな。せめて声に出せ声に」 表情が物語る単語を正しく理解し、無言の倉間から目線を外してグラスを口元へ。 「お前が素直に頷いてたら離れてたわ」 「諦めいいですね」 責めるのではなく、淡白な被せ。残り少ない中身をあおってから、笑った。 指に付いた油を舐めた倉間が、何とはなしに聞いてくる。 「俺からだったら?」 「言わせねえよ」 「えー…」 早口の断言に再びの半目。 なんだその返事は、とでも言いたげな、むしろ自分は言っておいてという気持ちも感じられる、気がする。 コン。グラスを置いた音が響き、静かな空気に本音を混ぜた。 「お前から言うなら、ホントになるから、そうさせない」 目が大きく開いた。倉間のグラスの液体が揺れる。 「あ、そう」 「うん、そう」 頷いてもう一度、口元を緩ませた。 |