お望みどおり、利子をつけて


確認は大切だ。もしかしたらと思っても違うことは世の中あふれ返っている。ならばこの、他に可能性がなさそうな場面も覆されるかもしれない。逃避めいた思考に任せて口を動かした。

「状況を聞いていいか」
「押し倒しました」
「押し倒されました」

反芻して現実を認める。先刻、思いつめたような表情で圧し掛かってくれた倉間は何とも余裕がない。
そんな早口で言わなくてもいいだろ俺がつられる。
確かめたところから進行しないイベントに首謀者が痺れを切らしてきた。

「こっちも勢いなんだから沈黙すんなよ!」
「逆ギレ?!」

罵倒は明らかにお門違い。一杯一杯なのは分かりすぎるくらい分かるが落ちつけ。
そもそもベッドでもないあたりに突発的行動をありありと感じる。大きいといっても所詮はソファー、安定も悪いし転がり落ちないか心配だ、倉間が。どう宥めようか思案していると、更に追い詰められた様子で肩を掴んでくる。おっと、本気だ。

「あのな、倉間。俺いま割と動揺してるんだが」
「見えねーよ!」
「ごもっとも」

叫ぶ態度に頷くしかない、体勢的に難しいからやらないが。驚きすぎて一周してしまった。受け答えは出来ても頭はほとんど回らないのだ。返答がお気に召さないか、肩の手に力が篭もってきた。少し痛い。
一度噛んだ相手の唇からぽつりと零れる。

「アンタ、そんなのばっか」
「ん?」
「なんか、いつもすかしてっし、そうなんの当たり前みたいな!」

必死の表情が悔しさを浮かべた。叩きつける語尾は泣きそうに思える。出そうとした声が僅か絡まった。

「…やりたくない?」
「ちげーよ!のってんだろいま!」

よぎった仮定は怒りを伴って打ち砕かれ、安堵が胸に。なんとか動かすことを思い出した右手を伸ばし、頭を撫でてやる。

「主導権、ほしい?」
「…、ちょっとは」

求めていただろう答えに辿り付けた。口篭る相手が肯定を示し、興奮した名残の赤い顔でか細く呟く。

「はじまったら、どーせ、わけわかんなく、なるし」

途切れ途切れのその台詞が、全ての意味を伝えてくれる。ほんの少しだけ髪をくしゃりと掻き回す。

「また笑った」

つい緩んだ表情に怒りの視線。また、とは何を差すのか。だがそれよりも何よりも。

「なんでそんな顔、」
「かわいいはいらね」

遮る予測が的確すぎる。愛でたい気持ちは存分にあれど機嫌を損ねてしまっているので別の表現を模索した。

「嬉しい」

ぐ、と詰まってしまった倉間の頭をもう一度撫でて、左手を頬へ滑らせていく。両手で顔を少しだけ引き寄せる。視線が揺れて、それでもまだ不満げな表情。

「お前も欲しいならそれで十分」

鼻先に軽くキス、すぐに同じ部位へ噛み付き返された。

「襲ってくれんの?」

噛んだ場所に唇で触れ、舌で舐めた相手が恨めしげに見てくる。

「もうはやくほしい」

よくできましたの意を込めて、肩を抱き締め深い口付け。
背骨を辿って腰をなぞり、互いの望みを叶えることにした。


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