目標捕捉、された


てってってって、とでも表そうか。 擬音が頭を回りながら見守るその先では、日常において、 あまり俊敏な動きをしない研磨がそこそこの機動性で近づいてきている。 用事があるのかと思えばなかなか止まる気配がない――それもそのはず、 まっすぐに自分へと飛び込んでくるのが最終目標のようだった。 大した勢いでもなかった相手を受けとめて、一拍。

「研磨?」
「さむい」

呼びかけに即答は端的なもの。
上手いこと胸におさまってきた研磨は再度。

「春とか嘘、寒い」

小さな呟きに若干の不機嫌を乗せて擦りついた。

「あー、はいはい」

手頃な暖の取り方として選ばれた事実を納得し背中を撫でてやる。 三月も終わるとはいえ、まだまだ気候が安定しない。 昼からは春の陽気、なんて天気予報の言葉も午前ではありがたみが微妙だった。 体温を分け合ってというか平均化されてというか、相手の望みどおり抱き締めて少し。落ち着いたような息が漏れる。

「ん、」
「そこまで安心されると複雑だな」

思わずぼやいた一言へのったりと顔が上げられた。

「なんで」
「いや、聞くなよさすがに」

答えられなくもないが見つめられては少々どころか大分きつい。
一度瞬いて見せた研磨は小さく口を動かして。

「クロにしかしない」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
「うん、まあ、いい」

首を傾げた仕草が可愛くてどうでもよくなったような状況が更に悪化したような複雑な心持ちで言葉を濁す。
話が終わったと受け取った相手が猫みたいに身体を擦り寄せる。このタイミングで甘えないで欲しい。

「あったまったら」
「ん?」
「あったまったら、いいよ」

胸に顔をつけてくぐもった声はその大きさに反してストレートに耳へ届く。
抑揚はそれほどでもないのに、含められた好意の深さといったら。
そういえばここが近所の公園だったとか休日のくせに人気も少ないなとかそもそも外で言うなとかたくさんの言葉で埋め尽くされる思考。

「クロ、真っ赤」

いつの間にか背伸びして覗き込んでくる研磨の唇を塞いだ。


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