そもそもなぜ凍ってしまったか


どのくらい時間が経っただろうか。
こういう場面の体感時間は長い、一時間だと思ったら五分だったとかいうのはよくある話だ。
だがしかし、これはさすがに軽く十分以上経っている自信がある。何故なら首が少し痛いからだ。

近くにある、どころか肩に手が置かれているから感じるどころではない気配は動かない。
気の長い方である日本もさすがに焦れて――むしろ微妙な角度の首が痛くて――ちらり、目を開けてみる。

「こ、こらっちゃんと瞑ってろよ!」
「あ、すみません」

途端に慌てたように上がる声に反射的に目を閉じてしまう。
一瞬だけ見えた相手の顔はこれでもかというくらい一杯一杯だった。どうしろと言うんだ。
何がきっかけだったかはよく覚えていないけれど、そういう雰囲気になったから流されてみたのだ。
勿論、嫌ならとっくの昔に拒否しているしそもそもこんな展開にはなったりしない。
要するに、なるべくしてなったと言わんばかりの状況であるのに肝心の相手が踏み止まっている、わけだ。
傍から見たらバカップルこの上ない状況なのかもしれないが当事者からするといい加減にして欲しい。

――二次元だったらこの焦れっぷりを楽しむんですけどねえ。
ふとそんな風に考えてしまう自分の癖にも少しうんざりする。わびさびは日本の文化だったはずだがこの情緒のなさはなんだろう。
とはいえ、その責任の一端どころか半分以上は相手のヘタレ具合にあるのだから自分に責任はないはずだ。

肩にかかる手は必死さを伝えるようにかすかに震えていて、弱くない力だというのに痛くはない。
つまりは頭が真っ白になるほどパニックになっているのに自分への気遣いを忘れていないというわけで。

――この紳士っぷりがあるから嫌なんですよね、この人。

日本が自分の甘さに苦虫を噛み潰した気分になっている間も、 うーだのあーだの、意味の通らない声を途切れ途切れに紡ぐ相手はなかなか動いてくれなかった。
思考に浸るのも、もう飽きた。心のままに、日本は深い深い溜息を吐き出した。

びくっと揺れる相手の動揺がダイレクトに伝わってくる。
ああ、今は凄く泣きそうな顔をしているんだろうなあ、とぼんやり思う。
そうなるだろうから溜息は尽かないでおいたのだが、日本も既に限界だったのだ。
ぱっちり、今度は窺わず目を開く。
案の定、ショックと不安でこの世の終わりとばかりに震える相手の様子に、くすりと笑みが零れる。

「泣いたって駄目です」

このまま延々ループするくらいなら終わらせてしまえ。

「もう待てません」

言い終わりざま、背伸びと共に腕を伸ばして相手の首に縋りつく。
疑問符を飛ばして声にならない声を上げるイギリスに瞳だけで微笑みかけて、口を塞いだ。
更に動揺し、暴れるかと思ったけれどそれも一瞬のこと。少し唇を離してまた重ねれば、おそるおそる背中に相手の腕が回った。
幾度か緩い口付けを交わし、顔を合わせると、真っ赤に染まったイギリスが視線を逸らす。
むっとしたので両手で頬を挟んで引き寄せた。

「イギリスさんの意気地なし」

直後、掻き抱いてきた力の強さを喜んだところで罰は当たるまい。

「遅すぎますよ」


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