あいつが悪いんだから仕方ない


「ロマーノ」

呼ばれたと認識するより早く、回された腕が自分の身体を拘束する。ちょっと立って物を取りに来ただけなのに、動けなくなる。 何の脈絡もなく抱き締めてくるのはよくあることで、むしろ後ろからそうやってくるタイミングを妙に逃さないあたり、 こいつは腹が立つとしみじみ思った。

「重い」

実に素っ気無く切り捨ててみせるが、それでスペインが引いた記憶など一度もない。

「やったら俺のほう倒れこんだらいいねん」

大歓迎やでー、なんてへらへら笑う男は案の定気にも留めずに、いやそれどころか変な受け取り方をして間違った提案をしてくれた。あほか。
密着する体温、ふわりと届く相手の香りに安心してしまう自分の性質というか習性というか刷り込みのようなものがとても憎い。

「うっさい。そしてうざい」
「ロマーノ冷たいー今日なんかいつもより冷たい気ぃするー」

尚もつれない言葉をぶつけてみるも、今度は拗ねた態度でうりうりと身体を擦り付けてくる相手は懲りもしなかった。
だいたい、いつもよりって何だ、お前こそいつだって変わらず暢気に笑っているだけの癖にこのやろー。
膝の力を抜いて、がくんとバランスを崩してみれば、慌てたスペインが持ち上げるように力を入れた。 その流れに乗せて、思いっきり後方へ体重をかける。スペインは対処しきれるわけもなく、俺もろとも床へ思いっきり倒れこんだ。
かなり鈍い音が響き渡ったが、俺は下敷きにした奴がいるから思ったほど痛くはない、というか全然痛くない。

「お望みどおり倒れてやったぞ」

ざまぁみろの気持ちを込めて鼻で笑う。
だけどスペインは変わらず俺をしっかりと抱き締めたままのんびりした声を出す。

「ったぁー……ロマなにすんの、頭打ったやんか」
「それ以上アホにはなんないから安心しろ」
「ひどっ」

そんな子に育てた覚えはない!だとか嘆いてみせるのに心中で溜息をつく。
いつもそうだ、どんなに恩知らずと言われそうな態度をとってもスペインは必ず俺を守る。今だって、庇うように衝撃を全部自分へ向けたのくらい分かっているのだ。
腹が立つ。分かってて繰り返してしまう自分も、それを気にせず当たり前のように受け止めるスペインも。

「いい加減離せよ」
「嫌や!ロマーノ冷たいから離したらへん」

知らず拗ねた声色になる俺に、更に子供みたいなノリで答えが返ってきた。いやお前が拗ねてもかわいくねぇし!

「そっち向けねぇだろ」
「へ?」

間の抜けた声を出すスペインの鳩尾に肘を入れる。
ぐぉっ!とか呻きながらも離さないとは見上げた根性だ。むかつく。

「キスできねぇっつってんだよバカが!」

あっさり緩んだ腕の力が驚きのせいなのかは分からないが、とりあえず向き合ったらだらしなく笑っているだろうスペインの顔を抓ってやろうと決めた。

悪いのは、俺じゃない。


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