ほんとは駄目だけど仕方ない


「スペインのあほちくしょう!トマト馬鹿が!」

捨て台詞を残して走り去っていくロマーノの背をスペインはポカンと見送った。
今日は何が気に触ったんだろうか、そう考えるより先に投げつけられた言葉へ正直な感想を。

「そんなんロマーノも一緒やん…」
「聞こえてたら更に怒られるよお前」

もはや聞く人のいないはずだった独り言はいきなり現れた相手に拾われて返された。
首だけで振り返るとフランスがやっほーとばかりに手を振っている。

「なんやフランス、また来たん?実は暇なんちゃうの」
「何かあったら俺に愚痴る癖に見上げた態度だよほんとに…」

悪気も他意もなくざっくり言ってくるスペインに渋い顔のフランス。
その表情に首を傾げて「何が?」なんて重ねてこられれば流すしかなかった。
気を取り直して、ロマーノの去った方向を見つつ、馴れ馴れしく肩に腕を回しながら聞いてみる。

「また空気でも読まなかった?」

近くに寄せられたフランスの顔を見て、再度首を傾げて。んー、と腕組みをしたかと思うと、片手でひとつずつ今日の出来事を数え始めた。

「やー、今日はご飯作ってー、トマト収穫してー内職してーロマにおやつ作ってー内職してー」
「ああうんわかった、もういいから」

おやつ作って、のあたりでストップをかけたフランスは、待ったに使った手を自らの額に当てて大きく溜息をついた。
最初のご飯のところに当然組み込まれている何がしかも考えてえもいわれぬ気分になった。
いや知っている、そんなことはもう数百年も前から分かっていたはずなのだ。しかし言わずにもいられない。

「あのさ。ちびの時ならまだしもいい加減対応変えるっつーか甘やかしすぎっつーか…イタリアも評価に困るけど兄はまた違うベクトルで困るタイプとお兄さんは思うわけ」

遠回しに切り出しただけでは伝わるはずもなく、スペインはのんびりと笑う。

「あははー。イタちゃんはかぁええしロマーノもかぁええからなあ、ほんと和むわー」
「だからそうでなくて、お前!お前に責任あるってまあ俺も止めなかったけどな」

お前の場合は和むより興奮してるだろうとか可愛いのは同意で俺も欲しいとか主張は色々あったけれども、 全てをスルーして主題を持ち出した。最初はやけに入れ込んでるくらいに思って生温く見ていたが、 エスカレートっぷりといつまでも継続されるそれは定着してしまっていいのかどうか。
好奇心と少しの批判とお節介を含んだ中途半端な感想に近い指摘。
どうせ軽く流されるのを見越しているので、曖昧さに投げやり感が滲む。
スペインは笑った。

「だってロマーノは俺がおらんとあかんもんなあ」

心から喜んだ声音、いっそ誇らしげでもあるその笑顔は至上の幸福を称えている。
そうだろう、そう思うだろう。疑問ではなく確定された言葉の響き。
フランスの背筋を冷たいものが走った。

「え、なに。お前わざと?」
「無茶言うわー、ロマーノのサボリ癖も不器用も天性のもんやで」

断片的な、質問にさえなってない呟きを見事汲み取って、からりとスペインが笑う。
なんでそんなところだけ反応がいいんだと言う気も起こらない。
確かにそうだろう、スペインが本気で手を焼いていたのも事実で相談されたのもフランス自身なのだ。
しかし何か、何かがひっかかるのは呆れとかではなく別の根幹。

「だからかわええやろ?」

念を押して微笑むスペインは無邪気そのもの。だからこその違和感。

「あ、そろそろ探しに行かんと。アイツ昔から拗ねて行く場所変わらんっちゅーねん。俺に見つけて欲しいんかなあ」

ぱっ、と表情を戻したかと思うとフランスが逡巡している間にいつもの様子でべらべらと親馬鹿な様子で語りだす。
挨拶もそこそこにうきうき探しに走るスペインを見送って、しばらく。
ようやく動けるようになったフランスは片手で顔を覆うと深々と息を吐いた。

「…俺には関係ないけどさあ」


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