笑いたくて仕方ない


ロマーノロマーノロマーノロマーノ。
何度も繰り返される名前が自分のものなのに意味の分からない言葉に思えてきた。この口から、いったい何度発せられたのだろうなんて愚かな疑問が頭をよぎる。その間にも回数はかさんでいく。

「ロマーノはずーっと俺と一緒やもんな」

飽きもせずに自分を強く抱き締め、痛いくらいぎゅうぎゅう力を込めて離しはしない。思い出したように頬を摺り寄せ、体温と感触を確かめるかのごとく繰り返す。当たり前みたいに顔中どころか首筋や鎖骨にまで降り注ぐキスはくすぐったいものから意図を持って触れてきたものまで様々だ。調子に乗って這わされた舌に、ひっ、と声を上げ背中爪を立てると一旦引いて、だがしかし笑顔で覗き込んでくる。

「距離とかそんなん関係ないねんで、お前は俺のかわいいかわいいロマーノなんやから」

聞いてもいないのに宣言してくれる目の前の馬鹿は、こちらの睨みをどの方向で受け取ったのか、ふわり目を細め慈しむ声と表情でもって懲りずに口を開く。

「心配せんでええよ。俺の最優先はお前、何があってもお前が一番、放す気も渡す気も譲る気ぃもあらへん」

そうやって緩く掻き混ぜられる髪の感触は何百年経とうと変わらない。長く長く、じっくり降り積もっていったものは覆い隠すなんてものじゃなく、新たな地面になってしまった。

「お前の最優先は自分を満たす事だろ」
「せやからお前が大事やゆうてんねん」

うっとりと愛しげに落とされたキスは限りなく優しく、思考を麻痺させるのには十分だった。幸せそうに笑うスペインの表情も気持ちも言葉も本物で、本物であるがゆえにどうしようもないのだと頭の隅で諦観したように落ちる声は乾いている。
冷めているのではない、受け入れたからだ、とうの昔に。
この自分勝手で愛情の名の元に全てを正当化する男の、それこそ何もかもを欲しているからこその結果であり導かれただの落ちただの言われる筋合いは誰にもない。
利己主義結構、自己満足大歓迎。スペインの欲望を執着を一身に受けているのだから嘆く必要があるだろうか。

自然と口元が綻び零れる笑いは止まらずにロマーノの肩が小刻みに揺れる。気付いて再び覗き込むスペインは酷く愉しそうで、ますますこみ上げてきてしまう。

「笑うなんてひどいわぁ」
「ちげーよ」

嘯いて近づいてくる顔を両手で挟み、自ら引き寄せて視線を絡めた。熱を帯びた瞳に応えるように吐息を交わし、口付ける寸前で唇が弧を描く。

「幸せだってことだ」


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