作用反作用


穏やかな昼下がり。
今日も今日とて連絡もなしに昼食をせびりに来たロマーノに対し、スペインは文句のひとつも言うことなく鼻歌さえ歌いながら台所に立っていた。朝に収穫したばかりのトマトのひとつはソファで寝転がっているロマーノが齧っており、年月を重ねようとも変わらない関係に思わずスペインの顔が綻んだ。
下ごしらえもそこそこに、ふいに思い立ったスペインは手を洗ってタオルで拭くと、居間でごろごろとふたつめのトマトに手を伸ばしたロマーノを覗き込み、おもむろに手を広げて微笑んでみせる。
 
「ロマーノ、ぎゅってしよ」
「うぜぇ」
「ひどっ」

言い終わる前に一刀両断。真顔ですげなく却下されてしまい、あからさまにショックを受ける。その様子を見たロマーノがわずか視線を泳がせて、苦虫を噛み潰したような表情で言った。

「お前、いきなりそういうこと言うんじゃねーよ」
「なんでー減るもんとちゃうやん」
「減る」
「ええええええええ」

食い下がる発言もまさかの即答で、何が、どれが、と突っ込む気力もなくスペインがよよよとソファに崩れ落ちる。その間も距離を取って座ってみせるロマーノにさすがに本気で嘆きだす。

「ロマ冷たい…愛が、愛がなさすぎる……親分泣いてまうよ?」
「泣けよ、好きなだけ」

本日三度目の切り捨て御免。日本で見た時代劇の終盤に見られる容赦のなさが頭に浮かんだ。そんな事が浮かぶ時点で余裕がある、という有難いお言葉は付き合いの長い悪友の言だ。

「うわあああん!本気で冷たい!何?何かしたん?俺何かやってもうたん?謝るから言うてー!」

もはやプライドも何もなく肩に縋って喚き出すスペインを見遣り、ロマーノは深々とため息をつく。

「自分で答えに辿り着けない所がお前の一番の敗因だって気づけよ……」

事実、喧嘩や諍いが起こるたび大概起こるのはロマーノで謝り倒すのがスペインだ。何が悪いか分かりきってもいないのにとにかく謝ってくる相手に色々と積み重なるものがない訳ではない。
心からの本音であるその言葉も、いじけ始めたスペインに対しては何の意味もなさなかった。むしろ悪化させた。 

 「ロマーノに嫌われたら俺生きていかれへん…」

どん底にまで落ち込んでみせるスペインの声は絶望の色を滲ませて、とうとうソファの上でうずくまってしまった。
正直、ロマーノは本気でうざいと思った。

「ああもう!俺がイジメてるみたいに言うな!むかつく!」

言うが早いか膝を抱える相手に腕を伸ばし、そのままぎゅっと抱きついた。温もりに目を見開いたスペインから急いで離れると、食べかけたトマトをまた手に取ってそっぽを向いてみせる。
 
「サービス終了、さっさと飯作れバカ」

見える横顔と耳が赤いのは目の錯覚ではない。少しの硬直の後、ほわんと幸せそうな表情となったスペインは周りに花でも飛ばさんくらいのオーラを放ちつつ、ロマーノにねだった。

「えーもうちょっと欲しいー」
「頭突き食らいたいか…?」

トマトを握り潰しそうなほどぷるぷると震えて本気で睨んでくる顔はやはり真っ赤だった。怖くはないのだが、あまり突付くと本当にへそを曲げてしまうから、ソファの腕の距離を詰めながらにこやかに告げる。

「じゃあ、親分がぎゅってするから」

近づいた相手の顎をくい、と持ち上げて限りなくやさしくスペインが目を細める。

「ロマーノはキスしたって」
「ハードル上げんな!」

ロマーノは手にしたトマトを今度こそ顔面にぶん投げた。





企画への寄稿作品。


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