正直は美徳 「ロマーノ久しぶりやぁ!親分やで親分やでお前の親分やで〜!」 「離れろうぜえええええええええ!!」 最後に会ったのは独立直後。 ゆっくり話す時間を無理やり作って怒って怒鳴って、気が付けば相手の腕の中にいた。 相当な回り道をしてやっとこさ手に入れたものは変わらない温かさを自分にくれる。 名残惜しさに掴んだ手は優しく包まれて口付けが落とされた。誓いのようだ、と呟けば、そのつもりだと返ってきて胸が一杯になった。 それから、やるべき事に追われて日々を過ごしているうちに会議の日がやってきた。 初めての兄弟での出席ということもあり、気持ちを落ち着けようと人気のない場所を探したところで捕まって現在に至る。情緒も何もない。 ひとしきり再会を喜んだのちロマーノの服装に目を輝かせてスペインが笑う。 「ロマーノ、スーツやん!かっこええなあー、ビシッと決まってるで」 「会議なんだから礼服くらい着るだろちくしょうが」 真正面からの褒め言葉に偽りはない。そう、スペインは嘘は言わない男だ。思わず横を向いてすげなく言うと、何かのスイッチが入ったのか興奮して更に喚き出した。 「え、照れてる?ロマーノ照れてる?うっはー!めっちゃかわええええぶはっ」 「褒めた傍から馬鹿にしてんのかテメーは」 せっかく人に囲まれたくなくて避難しているのに騒がれては元も子もないので早々に手のひらを押し付けて口を塞ぐ。ついでに文句も忘れずに。 だがそんなものでへこたれるわけがなかったスペインは何故か胸を張って言ってきた。 「してへんもん!ロマーノはかっこかわええの!二つを併せ持った最強っぷりやねんで!」 「お前の頭が最高に可哀想だということは分かった」 「なにその冷めた眼差しー!あ、でもつれないロマーノも標準装備やもんね」 それはそれで!とえらく簡単に持ち直されてロマーノの疲労ゲージだけが地味に上昇した。 久しぶりに、そう、本当に久しぶりに会ったにもかかわらず馬鹿馬鹿しいテンションを相手にしなきゃならない遣る瀬無さが襲ってくる。そりゃあ自分だって少しは、いや、実はかなり楽しみにしていたしそれなりに落ち着かない気分でもあったのだ。だというのに初っ端からああこられてはお決まりの対応を返すしかない、むしろそれしかできない。気に入られている自覚はあったが「うちの子が可愛くて仕方ないんです」的なオーラを出しまくられてどうすればいいのだろう。 嬉しくないと言ったら嘘になる、だけどそれだけが欲しい訳じゃない。 だから今日、スペインに会うのは嫌だったのだ。 いつも、自分だけが違う想いを抱いている気がして。 せめて私的に再会できればこんなことには、と思う反面、会議でもなければ会えないくらい時間のない身だった。でも何も長時間拘束される日にモヤモヤした気持ちを呼び起こさなくてもいいじゃないか。元々大して集中もできない性格なのに、これでは始まる前から憂鬱だ。しかもイタリアとして座る席の視界にはスペインの席がある、どうしろと。 きゃっきゃと騒ぎまくるスペインにどんどん居た堪れなくなってロマーノは視線を落とす。一度気分が落ちると連鎖反応でどこまでも沈んでしまうのは悪い癖だった。 文句さえ紡がず静かになってしまったロマーノにきょとんと目を瞬いてスペインが覗き込む。ロマーノは唇を噛んで沈黙を守る、いま口を開いたら罵声と共に泣いてしまいそうだった。こんなことで、そうこんなことで不安定になるほど自信がないのだ。そのことが酷く情けなかった。 「ロマーノ、俺と会えても嬉しくない?」 突然落ちた声に驚いて顔を上げる。目が合ったスペインは少し寂しそうな笑顔で手を伸ばし、頬へ触れてくる。当たる指が、熱い。 「俺、お前にめっちゃ会いたかった。でも仕事で動かれんかったし、お前もイタちゃんと忙しそうやし全然暇なくって、やっと会議って名目でお前に会えてめっちゃ嬉しいんよ」 瞳を見つめたまま告げられる想いはまっすぐで温かくて、いまさっき落ち込んでいたのはなんだったのかと嬉しさと腹立たしさが同時にあふれて止まらない。 「わ、わかるように寂しがれよ!このやろー!」 「だだだだってロマーノに会えたらテンション上がってもて…!」 じわり滲みかけた涙を振り切るがごとく己にとっては正当な文句をぶつけてみせれば慌てたような言葉が返り、ますます気持ちが高ぶった。 「お前の、お前のそういうとこが…っ」 「せやかて、騒いで喜ぶくらいで抑えとかんと!」 遮るように強く言った台詞は本人にとって予想外だったらしい。 あ、と口元を押さえるスペインはしばし沈黙したが涙目で睨むロマーノに耐え切れず観念して続きを白状した。うっすら頬が紅いのは気のせいだろうか。 「抑えとかんと…お前攫ってどっか行きたなるやん」 気まずげに目を逸らしたスペインの言葉にロマーノの顔が真っ赤に染まった。 やはり、会議に集中できそうにない。 企画リクエスト「西ロマでほのぼの」 |