Si 「俺はロマーノにならいつでも欲情できる男やで」 爽やかな笑顔で言い切ったスペインの迷いのない様子に背筋を嫌なものが走った。いわゆるドン引きだ。 微かに感じた何かは気の迷いだ、ここはどきっとするところじゃないぞ俺!いや違う意味でどきっとするけど! 何が怖いってスペインが俺に見せてきた態度が昔から変わっていないことだ。 昔からそのノリできてる奴にそんなこと言われてみろ、ひく。 「お前、俺のことをどのくらいからそういう目で見てたのか言ってみろ。返答によっては軽蔑するぞ」 「そんなん言うたら軽蔑されてまうやんかー」 じりじり距離を取りながら思い切り冷たい視線を向けてみるも、ありえないくらい即答で返される。 いま、なんていった?コイツ。 「うわあああああマジでいつからだ!いや言うな!聞いたら取り返しがつかない気がする!」 「いやちょっとちょっと、冗談やって」 完璧に寒気がしてソファの端まで逃げると同時、蹴りを一発。慌てて追いすがるスペインの胸元に見事入って奴は少しだけのけぞった。 威嚇を込めて睨み付けると困ったように頬を掻いて冗談だとさらに繰り返す。聞こえない、お前のは冗談に聞こえない。 そんな俺の怯えも知らず、だって、とスペインが口を開く。 「ちっこいお前はかあええなー思とったけど、それで満足やったもん」 あ、今も可愛ぇけどな!にこにこ付け加えられてどうしろというのか。つか聞いてねーし。 「むしろほぼ懐いてて思春期になったあたりのがぐっときたっつーか…」 「細かく回想するなマジやめろ!」 そのまま思い出に浸り始めたスペインの語りが聞きたくなくて両耳を塞いだ。 保護者的愛情からの変化なんて事細かに知りたい訳もない、精神攻撃でしかない。 俺だって、俺だってなあ、いつからそうだとか言われたら困るんだ。 変化を確信したのと相手が欲しいと思ったのは実は別の時期だったりもするし、本当に最初は一緒なだけで良かったっつーのに こいつは人の気持ちなんかお構いなしに可愛がり倒してきて期待ばかりが膨らんで、でもそれを壊すのが嫌で嫌で嫌でたまらなくて 長い間葛藤しまくってた結果がこれなのかと思うと消え去りたい。要するにバカだ、俺もコイツも。 「あーもうごちゃごちゃうっさいなあ!」 膠着状態に痺れを切らしたスペインがまさかの逆ギレを起こして俺へと腕を伸ばす。 反射的に目を瞑ってしまえば溜息が耳に届いて、だったら触んなちくしょうと言いかけたところで響く声。 「俺はロマーノが本当に嫌がることはせぇへんで」 優しく抱き寄せる仕草は子供をあやすようで癪だけど、そうされるのは嫌じゃなかった。 いつだってスペインは俺が安心する方法で黙らせてしまう。 「せやからロマーノが言ってくるまで何もなかったやろ?」 「身も蓋もねぇぞ…」 なのに口から出てくる台詞は気遣いがなさすぎる。そんな具体的な事例を出せと誰が言ったこのハゲ。 踏み出すきっかけを作ったのは俺で、それに乗ったのがスペインで。 コイツは時間の問題だったなんて笑ってたけど俺が言わなきゃ関係が変わることはきっとなかった。ひどく、もどかしい。 逸らした瞳を引き戻すように手のひらが頬をゆっくり撫でて、ちらりと一瞬だけ戻した視線を逃すまいと顎に指がすべる。 「だって俺はロマーノにもうたくさんたくさんもろてるからな。そのうえロマーノごと欲しいとかよう言わんわー」 呆れた素振りに隠したつもりの心情を読み取ったか天然か、前者は絶対にないと決め付けつつも悔しくて仕方がない。 「今は」 「ん?」 「今はどうだ、っつってんだよ、このやろー」 外すことができないならと睨みながら言葉を紡げば限りなく優しい微笑で覗き込んできて、詰め寄るつもりが途切れた悪態になってしまった。 目を伏せた俺にスペインは顔を輝かせて飛びつき、何度も何度も頬をすり寄せる。うざい。 「もう俺のやもーん、ロマが嫌って言うても聞かへん」 「さっきと言ってること変わってんじゃねーか馬鹿」 俺の俺の俺だけの、そんなことばかり言うからお前は駄目だってことにそろそろ気付けよ本気で。 まあこの男の発言の矛盾なんて気にしていたら神経をすり減らすだけだ。実体験すぎる。 もはや抵抗すら面倒でされるがままになりかけていた意識を引き戻したのは他ならぬスペインの一言。 「えー、だってロマーノ嫌がってないやん」 激昂が速いかキスが速いか。 |