至福 「なぁ、なんで嫌なん?言うてみ?何が嫌なんかちゃんと言うてみぃや、ロマーノ?」 まるで子供に何が好きかと笑顔で尋ねるような声色でうきうきと詰め寄るスペインはひどく楽しそうだ。 そう、これは詰問だ。軽い口調で放たれた今の言葉はその実ねっとりと重く圧し掛かってロマーノの身体を動けなくする。 後ろに壁がある訳でもない、今だって相手は自分を拘束などしていなかった。ただちょっと顎を掬い上げて瞳を合わせてきただけだというのになんてことだろう。払い除ける、突き飛ばす、なんだったら目を逸らすだけでもいい、そんな消極的な抵抗さえできぬ程にロマーノにとってスペインは絶対だと思い知らされる。 捕らわれている、心の底から、否、存在の全てを。 「お前が嫌だ、いやだ、ぜんぶがいやだ」 舌に乗せた台詞は硬く、剥がれ落ちるように震えて大した勢いがない。それでも必死に否定を紡いで虚勢を張る姿に堪らないという風に目を細め、スペインが優しく目元にキスを贈る。頬に額に鼻に順繰りに口付けるが、唇だけはするりと避けた。か細く、あ、と声を漏らしてしまったロマーノは己の失敗に大きく見開いてようやく振り払うような動きをするが時既に遅く、獲物を狩る視線を煌かせた目の前の捕食者は唇を吊り上げて嬉しそうに笑う。 「キス、欲しいん?」 答えも待たずに噛み付かれた。貪る、その表現が相応しい荒々しさで口内をまさぐられ舌を絡め取られ蹂躙される。呼吸を忘れるのではなくさせてもらえずに散々味わったものは強烈すぎて幾筋の涙と崩れ落ちる身体をロマーノに残す。文字通り、腰砕けになった自分をそれは愉しげに抱きとめる腕、そして声。 「かぁええなあ、ほんまかぁええ」 頬を伝う雫を舐め上げて愛しげに囁きかける幸せそうな響き。 「好きなだけ我侭言うてや、受け止めたるから」 極上の笑顔で告げる相手の服を、強く掴む事しかできはしない。 |